当たり前をガイドする。「多肉植物&コーデックスGuideBook」を読んで思ったこと

やっと、欲しかった本が出てきたと感じます。

「多肉植物&コーデックスGuideBook」 を読む!

売り場と実用書に乖離がある!?

つい先日、僕はこんなエントリーをしました。

比較的大きな園芸店を巡ると、「多肉植物コーナー」に並ぶ、あまり見慣れない植物たち…。

初心者の方が気になって多肉植物の本をあたっても、これら「コーデックス(塊根植物)」と呼ばれる植物の解説はあまりないのです。
ところがネット上には多くの情報がアップされ、SNS上ではいまもコーデックスは大人気…。

つまり、そうなのです。
オフラインで参照できるコーデックス関連の情報があまり存在しないのです。

いや、「ない」というと語弊があります。
2016年11月には、これらコーデックスを解説した念願の書籍が発売されました。
…のですが、こちら、ネットには賛否両論の声

詳しくは関連記事をご覧になっていただくとして、やっと実用的な書籍が発売されたと話題になっているのが、「多肉植物&コーデックスGuideBook」。

多肉植物&コーデックス GuideBook

まず、この本を読んだ率直な感想。
ハッキリ言って、先にも書いた2016年の例の本を意識しているのは間違いないと感じます。
なぜか。
それは「栽培の基本」の冒頭にある、この一文。


室内では育たたない!!
置き場から考える

ユニークなフォルムゆえ、つい室内に置いてインテリアの一部として楽しみたくなるコーデックス。
しかし、結論から言えば室内栽培は論外です。
一般的な観葉植物の一種だと思っている方が多くいるのも事実。セレクトショップのような場所で売られているのだから、誤解するのも仕方がないこと。

(中略)

コーデックスの多くは、植物もまばらな乾燥地帯に自生しています。
日本のような高温多湿の亜熱帯気候とは、大きな差があることを意識しておきましょう。

引用元: 多肉植物&コーデックス GuideBook

当たり前なことを、当たり前に書いてくれる本が出た!と僕は素直にうれしくなりました。

当たり前が書かれている重要さ

この文章で書かれていることを要約するのなら、 コーデックスは

  • まわりに何もないからこそ、陽も良くあたり、風通しも良い環境に置くべき
  • 乾燥を好むので、水遣りにはコツがいる

といったところでしょうか。

古今東西、あらゆる植物を紹介するたびに喧伝されてきたのは、センスの良い室内にセンス良く植物を置くこと
耐陰性のある植物を置くのなら理解できるのですが、どんな植物でもいたずらに、あたかも室内で栽培できるかのように演出する。
結果、長く伸び切った「徒長」と呼ばれる状態となり、やがて枯れるのです…。

もっとも、多めの光量を必要とするコーデックスを室内で栽培すること。
それは、植物に水を与えないくらい、冷酷な行為なのです。

人間にとって快適な環境であるほど、植物には暮らしにくい。
このブログにも何度も書いていますが、植物と暮らすにはそれ相応の覚悟が必要で、人間の暮らしやすい生活のどこかに齟齬をきたします。
ファッショナブルに室内に置きたいのなら、日中は屋外で光を浴びせ、日没後に取り込んでディスプレイする…など、ひと手間が掛かるのは当然のこと。

そして冒頭の一文。
これは紆余曲折してきたコーデックス文化に、一筋の光を与えたといっても過言ではないくらい、重要なものであると僕は読みました。
今後、あらゆるメディアにおいて、室内栽培を推奨するかのような情報はまずをもって疑ってみるべきです。
なぜなら、室内栽培を推奨している時点で、取材不足か勉強不足
植物を枯らす恐れがある→信用できないからです。

本のおもな内容

さて、この本は大きく分けて7つのコンテンツで構成されています。
そのなかでも重要なのは、

  • 自生地に見る原種たちの姿
  • 栽培の基本
  • 育て方図鑑
  • 塊根マニアの本音
  • 珍奇植物 情報索引

だと思います。

自生地に見る原種たちの姿

まず、自生地の様子は是非とも確認しておきたいもの。
栽培するにあたり、その植物は本来の姿はどのようなもので、どんな場所に暮らしているのか。
その植物の「あるべき姿」を探ることで、文章では見つけることのできないヒントを得ることができるかもしれないのです。

そんなことを考えていたら、2019年1月21日発売の「趣味の園芸」も「多肉植物特集」で、自生地の様子を探る重要性を説いていました

ぜひこちらもご参照ください。

栽培の基本

そして、冒頭にも書いたように「栽培の基本」は、是非とも目を通しておきたいもの。
なぜなら、通常の栽培実用書よりも、やや濃い内容が掲載されているから。
特に「置き場」のページはあらゆる意味のおいても確認すべき内容です。
コーデックスの演出方法や寿命、そして流通の問題…。
サラッと書いてあるようでいて、深く読める。
1冊を読み終われば、この位置にこの文章が置かれている重大さが理解できるのです…。

他にも、初心者が迷いそうな水やりや夏越し・冬越しのポイントも明確に解説
写真で分かり易く説明されているのも、読者にとっては大変うれしいポイントです。
嗚呼、多くのコーデックスを葬り去る前に、この本を読みたかった…。

育て方図鑑

この本でいちばんの構成要素となっているのが「育て方図鑑」です。
こちらは属ごとの区分けのなかに複数の品種が紹介され、品種の写真と共に名前と学名、一言コメントが掲載。
また、主要な品種には「栽培カレンダー」が添付され、年間を通してどのような管理を施せばいいのか、ひとめで理解できるようになっています。

掲載される植物のチョイスも抜群に良く、人気の高い希少な植物から、園芸店で目にするコーデックスまで、須らくカバー
コーデックスのみならず、あらゆる場面で目にする機会の多くなった「ケープバルブ」や、流行の衰えを知らない「エケベリア」まで掲載。
変化の著しい園芸店の多肉植物コーナーの「いま」は、この本1冊で網羅できるのではないでしょうか。
逆に言えば、「得体のしれない植物が市場からやって来た」と焦っている園芸販売員の方々には、やっと信頼できる情報源が見つかった…とも言えますよね(笑)。

塊根マニアの本音

僕は以前、こんなことをブログに記しました。

園芸雑誌や植物を扱うメディアは何をすべきかといえば、「植物×カッコイイ暮らし」のイメージを先行させるのも重要ですが、読者に誤解を生まないフォローもしっかりするべきだと思います。

一般的な住空間ではロクに植物は育たないので、養生するため(元気を取り戻すため)の環境が必要だということも明記する。

長く栽培している愛好家はどのように植物を栽培しているのか、正直に伝える。 決して薄暗い寝室に年がら年中、置きっぱなし…というのはあり得ないはずです。

とにもかくにも、園芸シーンのなかにデザインセンスを持ち込むのは否定しません。 むしろ歓迎すべきことです。

ですが、植物は単なるインテリアエレメントではなく、メンテナンスの必要な「生き物」であることを前提とした共通認識が必要なのです。


引用元: 『All About CAUDEX―塊根植物のすべて―』を読んで。「ファッション感覚」と植物栽培のズレ? | ボタニカログ

次々とあらゆる植物にスポットライトが当てられては、消えていく昨今。
正否の明らかでない情報も出回り、消費者の混乱を招くことも。
それと同時にメディアも都合の良いことばかりを前面に出すのではなく、伝えておかなければならないことは最低限、伝えておくべきです。

「塊根マニアの本音」に書かれているのは、そのような必要最低限のリアルな情報です。

コーデックスを取り巻くCITESなどの現状や2018年10月から必須となった検査証明書のこと。
それから、基本的な栽培方法のことなど…。
コーデックスはまずをもって「生き物」であり、当たり前の管理方法と趣味を深めるための社会情勢だけでも頭に入れておきたいものです。
前出の2016年の本がズッコケた大きな理由は、この部分をすっ飛ばし、あたかもコーデックスはハイソな植物であると演出しただけでした。
その点、この「―本音」に書かれていることは、コーデックスを長く楽しんできた人にとっては共感できるところもあり、よりリアルで生温かい
やっぱり、下手なバイヤーよりも消費者や生産者のほうが、ハナシが面白いのです。

珍奇植物 情報索引

他のブログやSNSであまり話題となっていませんが、巻末の情報索引は使えます
何が使えるかと言えば、主要なコーデックスの品種に関して、学名と生育型が掲載されている点です。
多肉植物の栽培はひとつのスペースにあらゆる植物が混在することが多々あります。
水やりなどの管理のために場所を区切ればいいのですが、冬型のメセン系と夏型のパキポディウムが隣り合ったりすると、これがまたややこしい(笑)。
慣れてこないとますます混乱してしまいます…。

そんなあらゆる植物が混在しているときに重宝するのが、一度に生育型が俯瞰できる資料なのです。
いちいちメセン系をスマホで調べて確認してから、パキポディウムの生育型を調べて…なんて、面倒くさいですよね。
パッと本を開いて、サッと確認。
僕もよく忘れてしまう性質なので、ありがたいです。

ただ、玉に瑕だなと思ったのは、学名索引ではなく、植物名での索引であること
特定の和名を知らなければ、なかなか、お目当ての植物を探し出すことができません。
その点、学名での索引であれば、同じ「属」どうしがひとまとまりで集まるので、探し出しやすいのではないでしょうか。

ちなみにこの本の企画制作会社さんが

情報欄が空欄になっているもの、学名表記などに誤記があるものなど、そのような情報は下記のメールアドレスまで、「珍奇植物情報」のタイトルでお知らせいただけますと幸いです。本書改訂のタイミングで、順次修正し、珍奇植物データブックとして、より精度の高いものにしていく所存です。

引用元: 多肉植物&コーデックス GuideBook

と書いています。
1800種もの植物が掲載されているそうですが、もし自分の栽培する植物のなかで間違いを見つけたら協力したいと思います。
…いまのところ、ありませんが(笑)。

感想

いまページをパラパラとめくれば、こんなにも「コーデックス」と呼ばれる植物が存在するのかとしみじみしてしまいます。
ところがこの本に掲載されているのは、ほんの一部。
コーデックスの世界はとても広く、一朝一夕に追求できるものでもありません

そもそも数年栽培しただけでは面白さの分からない趣味でもあります。
少しずつ大きくなる植物を前にしてやっと、その時間と手がけた労力に感動するもの。
そんな暮らしこそが「植物と暮らす」ということなのではないでしょうか。

そんな植物との暮らしを支えてくれるであろう1冊です。
初心者の方も、それ以上の方も、ぜひとも手元に置いておきたい本であると感じます。

この記事を書いた人

mokutaro

植物好きが高じ鉢物業界に飛び込んだアラサー男子。群馬県に移住し、毎日、食べ(られ)ない嗜好性の強い植物とまみれています。 園芸を考えるブログ「ボタニカログ」を運営中。