『多肉植物の栽培』という多肉植物の栽培本を読む!多肉がもっと面白くなる1冊。

ここ最近、多肉植物関連の書籍の発行がなかったように思います。

もっと上達するために読むべき1冊

多肉本、もはや食傷気味…。

その結果、園芸店でよく見かけるようになった珍奇植物とカテゴライズされる植物のほとんどが実用書ではカバーできていません。
さらには、どの書籍も似たような内容で、読者からしてみれば食傷気味だったのです。

つまり、本屋を巡れば時代遅れの実用書ばかり
少し違った切り口からみた本はないかなぁ…と思ったら、出ました!

この本を簡潔に言い表すのなら、多肉植物をもっと面白く育てるための本
初心者には少し難しく感じてしまう内容ですが、それ以上の中級者や上級者にとっては是非とも目を通しておきたい内容が目白押しです。

この本は大まかに3部構成になっていて、

  • 多肉植物を栽培することの基本を解説した「栽培環境」
  • 種類ごとの栽培法を解説した「各属の栽培」
  • 多肉植物への知識を深める「海外の名人に聞く」などのコラム

といった内容です。

また、この本の特徴として、著者は羽兼直行氏となっていますが、それぞれの栽培法やコラムはその道のエキスパートが解説
それがまた奥深い内容となっていて、読みごたえは十分です。

多肉植物を栽培することの基本を解説した「栽培環境」

まずは「栽培環境」の章を読んでみると、これまた必読すべき内容となっています。

現代の園芸では、栽培設備が発達しつつあり、高気密・高断熱化した住空間においてもある程度の植物であれば栽培が可能となってきています。

今後は住空間の高気密・高断熱化によって、室内空間での鑑賞植物はその場所を脅かされるかもしれません。
そんなとき、住空間の開口部減少を補うのは「人工光線での栽培」だと僕は考えています

この本では「人工光線」での栽培も解説してあります。
ここで紹介されているのは主にハオルチアでの栽培で、こと細かい栽培法にまで言及。
逆にここまで解説してしまっていいのだろうか?という具合です。

そのあとの「組織培養」の解説も目が離せません。
こちらも「DIYバイオ」というキーワードで近年注目されている事柄です。

いままでは大学や企業の研究室で行われているというイメージが強かった組織培養も、現在では低価格でトライできるキットも続々と登場[*01]。
さらには身の回りにある機器を組み合わせて使うことによって、簡易的なクリーンベンチなどをつくることができるようになりました。
その結果、プロでも驚くような研究成果や培養がアマチュアでもできる…ということで挑戦する人が多くなっています。

そんな組織培養の方法を多肉植物に限って解説している書籍は他にあるでしょうか。
それだけでも勉強になるし、なによりやってみたくなります(笑)。
まだまだ増殖に難儀する植物は数多くありますし、今後の技術革新によっては覚えておきたい項目です。

種類ごとの栽培法を解説した「各属の栽培」

次はこの本の主要なコンテンツ「各属の栽培」。

充実のエケベリア栽培法

その中でも豊富な情報量なのが「エケベリア」の説明です。

他の属の説明は数ページしかなされていないのに、エケベリアに至ってはなんとおよそ25ページの解説
原生地から栽培法、原種リストまで盛りだくさんの内容となっています。
そもそも著者の羽兼直行さんはエケベリアの書籍も発行しています。

以前、このブログでも記述しましたが、『多肉植物エケベリア Guide To Echeveria』には栽培方法が記述されていません。

だとすれば、この「多肉植物の栽培」と「多肉植物エケベリア Guide To Echeveria」を併せて持っていれば、こんなにも強力な栽培本はないということ。
エケベリアを愛好するのなら、ぜひとも手元に置いておきたい2冊です。

書かれているのは栽培の「コツ」

そして、冒頭にも書いた通り、他の種類についてもその道のプロが各属の解説を行っています。
まさしく、餅は餅屋。
ある意味、羽兼さんは著者というよりも編者という立場になっています。

…なのですが。
一部、マニアック過ぎていたり、「多肉植物の栽培」という観点からポイントがズレているものもあり…。
この本で書かれる主要な情報はプロが伝授する「コツ」のようなもの。
総合的な栽培法ではないけれど、ある程度、植物を育てることが慣れてきたときに必要となるワンランク上の情報が断片的に掲載されているのです。
そう、断片的に、です。
ゆえに、基本的な栽培法は街の本屋でフツーに売っている多肉植物の実用書を当たることをおすすめします。
それが僕の初心者向けではないと感じた部分でもあります。

栽培の次なるステップとなり得る

いや、初心者には難しいから読むな、という訳ではありません
初心者の方でも内容さえ理解できればこれ以上、ワクワクできる情報はないよね…ということ。
栽培をしているなかで、小さいな壁に戸惑うことがあります。
本書に書かれている内容は、あまりネットでは見かけなかったり、いくら実用書をひっくり返してもそこまで詳しくは解説がなされない点が多いのです。
そんな小さな壁のいくつかが、この本ではフォローされていたりするのです。
であるならば、初心者だろうがそれ以上の手練れだろうが、手元に置いて読む価値は存分にあるともいえるのです。

多肉植物への知識を深める「海外の名人に聞く」などのコラム

そして最後は「海外の名人に聞く」のコーナー。

こちらは5名の栽培家さんにインタビューをし、各国の環境に合わせた栽培方法を知ることができます。
読めば、どの国の栽培家さんも僕らと同じように苦労をし、工夫をしていることが分かります。
特に南アフリカの栽培家さんは水不足に悩まされながらも、自生する植物本来の動きを利用した栽培法を実践しているのだとか。
もともと乾燥に強い植物の特性を最大限に発揮させて育てることが見て取れます。

自分なりの栽培方法に加える「エッセンス」

身の丈に合った、無理のない栽培方法

そんなこんなで、とても面白く読み進めることができました。

と、紹介しておきながら一応書き記しておきます。
ここに掲載されている栽培情報が正解ではないのです。
紹介されている栽培法は、その道のプロが導き出し、良い結果が得られているという「だけ」のこと。
無理な栽培を続けるよりも、身の丈に合った栽培を継続的に続けることが何よりも重要です。
無理のない栽培を続けていけばいつか、もっと最良の方法が発見されるかもしれません。

僕も植物の生産現場に身を置いていますが、いまだ科学的根拠に拠らない、非科学的な栽培方法が論じられることが多々あります
非科学的な栽培方法が悪いという訳ではなく、どこか「宗教論」のような栽培方法を信じるか信じないかで語れることが、無性に違和感を覚えるのです。
もっと具体的に述べるのなら、栽培方法を他人に押し付けるような風潮が嫌いなのです。

上物のエッセンス

そんなコトを考えるとき、いつも思い出すのは、カレルチャペックの本にある一文のこと。


わたしがこの一派を宗門に帰依する信徒だというのは、彼らがひどく熱心にシャボテンを栽培しているからではない。それだけなら、夢中になっているとか、常軌を逸しているとか、マニアだとか言えばすむ。宗門に帰依するということは、夢中になって何かをすることでなく、夢中になって何かを信仰することだ。

引用元:園芸家12カ月-中公文庫-カレル-チャペック

サボテンを栽培する人たちのことを「信徒」だとカレルチャペックは述べていますが、どんな分野にもそういうひと、いますよね。
妄信して他人の話を聞かない、そしてそれを押し付ける(笑)。
だから僕は思うのです。
栽培法はあくまで参考
自分のやり方にあわせて「エッセンス」を取り入れていけばいいのだし、まるっきりその方法に従う必要はないのです。

けれど、この本に書かれているエッセンスは「上物」です。
美味い料理は美味い材料から成り立っているのと同様に、是非とも取り入れたい「コツ」がたくさんあります。
もっとうまく育てたい!もっと趣味を面白くしたい!
そう思ったときに、読むべき最良の一冊です。

  1. およそ20年前、希少な蘭を組織培養できると、アマチュアの人たちで盛り上がったそうな。だから厳密にいえば新しい技術ではない []

この記事を書いた人