この業界に入って「鉢物(ハチモノ)」が売れないとの声を、さまざまな方から聞きます。
それでも「売れない」と呪文のように唱える人からはなぜか「売れない理由」を聞きません。
あったとしても、流通のせいにしたり、流行のせいにしたり…。
鉢物の売れない理由。それは…
鉢物を置く場所がない!?
でも、鉢物が売れないのはそんなもののせいじゃない。
答えは単純明快。
置く場所や置く理由がない
から。
バブルの時代には、シクラメンやシンビジュウムの鉢を置く理由がありました。
最新の家電と同じ理論で、みんなが買うから私も買う。
持っていることがステータスであり、団地住まいからのマンションへと、住宅の広さにも少しだけ余裕が出てきた…。
「戦後の混乱から復興期そして高度成長期、日本人は食べること、生きることで精一杯でした。ようやく花を育てる余裕が出てきたのが昭和40年代(1970 年前後)。その頃になると住宅事情も改善され、鉢花が普及するようになったのです。歌謡曲「シクラメンのかほり」の大ヒットはその頃ですが(1973〈昭和48〉年)、当時、シクラメンはよく売れました。園芸ブームを牽引した花だったのです」(江尻光一さん)
引用元:シクラメンを見て園芸史に思いを馳せる|トピック&ニュース|みんなの趣味の園芸
でも今は、他の人と同じものを所有していることはどこかダサく感じてしまいます。
確かに人気ではあるけれど、黒いiPhone、白いNbox…。
想像しただけで「個性のない無難な日本人」感を彷彿とさせるものはゴマンとあります。
所有しているモノによって、その人となりが判断される時代。
どこにでもあるような同じものを生産していても売れないのは当然なのです。
国も後押しする住宅の高断熱化
それに加えて強調したいこと。
それが住宅の高気密・高断熱化です。
エネルギーの効率化を図るため、世界規模での取り組みが行われています。
我が国においてもご多分に洩れず、あらゆる分野において省エネルギー化が推し進められています。
そのなかでもとりわけ、住宅での高効率化は変化が著しいのです。
東日本大震災以降、電気やガスなどのエネルギーが逼迫し、価格も不安定化しました。
国も如何にエネルギー消費の少ない(効率的な)建築物を増築することができるのかに力を入れ始めています。
一例として、ZEH(ゼッチ)とよばれる住宅の普及が挙げられます。
ZEH(ゼッチ)(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)とは、「外皮の断熱性能等を大幅に向上させるとともに、高効率な設備システムの導入により、室内環境の質を維持しつつ大幅な省エネルギーを実現した上で、再生可能エネルギーを導入することにより、年間の一次エネルギー消費量の収支がゼロとすることを目指した住宅」です。
ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)に関する情報公開について|省エネルギーについて|資源エネルギー庁
ZEH住宅の特徴は高断熱で冬は暖かく、夏は涼しくという住宅性能と、省エネ設備を使ってエネルギーコストを抑えること。
それに加えて個々の住宅においてエネルギーを作り出すことが要点になっています。
国が後押しをしていることもあって、省エネ住宅の流れは一層強くなると考えます。
ところが、環境問題は強く推し進めるべき喫緊の課題ですが、「インドアグリーン」の視点から見るとちょっと問題が…。
住宅の高断熱化が進むと…
高断熱の住宅では大きな開口部(窓や玄関)を設けることを嫌います。
なぜなら、エネルギーの出入りが大きいのはどうしても開口部にあり、その部分を極力小さく抑えることが重要となってくる。
つまり、室内空間において、植物の成長に必要な「光」を取り入れることが難しくなってきているのです。
そうなると植物は徒長し、光を求めるために長く長く伸びていきます。
放置しているとモヤシのように細くなり、植物の健康も阻害。
目も当てられないほどの姿に変わり果ててしまいます。
常時人工照明がメインの薄暗くなった室内環境では、従来の「インドアグリーン」を、従来の栽培方法で育てることが難しい状況に…。
そのためか、昨今では鉢の大きさもなるべくコンパクトになっていることをお気づきでしょうか。
そうです。
あまりに大きな植物は歓迎されないのです。
そんな状況のなか、窓際で育てられる小さなグリーンとして迎え入れられたのが多肉植物なのです。
多肉植物は水遣りなどの日常管理を頻繁に行う必要がなく、誰もが気軽に植物栽培を楽しめる…。
いわばローメンテナンスで生活環境に緑を取り入れられるのです。
いまや園芸店を巡れば売り場面積を占拠していたモンステラやパキラなどの比較的大きな観葉植物が隅に追いやられ、小型で独特なフォルムの植物群が台頭。
消費者にとっては有難いことでもありますが、商品の小ささもあいまって、店頭の品ぞろえもバリエーション豊かになりました。
消費者はいつも「置き場所」を考えている
消費者側からしてみれば、購入後の植物をどこに置くのか…。
これが重要な問題になってくるのであり、売り場では常に「植物の置き場所」が消費者の頭を巡っています。
ところが、販売側や生産側はまだまだ置き場所についてのアナウンスや提案はなく、街の花屋には昭和時代の大きな定番植物ばかりが並んでいるのです。
平成も終わるというのに…!
ついでに庭に鉢物を置く、あるいは植えれば良いと考える方もおられるかもしれません。
残念ながら都市部では、そもそも庭もなく、あっても面積が狭くなっています。
詳しくはこちらの記事に記しました。
その一方で、草刈りなどのメンテナンスを要するため、地方部でも広い庭は忌避される傾向にあります。
管理を少なくするためにあらかじめ、一定の土地の中で家の建蔽率の限界点まで大きくしておく。
そのうえで露出する土はコンクリートで固め、スタイリッシュに一部のみ芝生を植える…などの外構工事が好まれるのです。
地元は神奈川の片田舎ですが、僕の知り合い(親世代)が家を建て替える際、十中八九、庭が狭くなっています。
もちろん、新築の場合も言わずもがなです。
今後の室内園芸はどうなる??
栽培設備機器が進化・普及しはじめている
では、今後の室内園芸はどのようになるのか。
以前の投稿記事にも書きましたが、外界とのセパレート化が進むことによって、外環境をどのようにして室内に持ち込むかが問題となります。
そこで登場するのは、IoT化された人工光線や自動栽培機能を備えた機器たちです。
光がないのなら、人工の光で植物を育てる…ということ。
植物工場のイメージが強いかもしれませんが、LEDの普及で一般家庭での人工光ライトが数多く出回っています。
また、どんな植物が育てられるのでしょうか。
一部の趣味家のみが育てていた、管理の難しい植物?
はたまた、家庭菜園のような野菜など?
もはや何が入り込むのか分かりません。
逆に言えばそこがチャンスでもあるのです。
時代はまさに転換期。
少しずつですが、熱帯の葉色が美しいアグラオネマ(ピクタム)や食虫植物が注目を集めています。
これらは先に書いたような栽培設備との相性が良く、設備の向上・研究も盛んです。
ついでハオルチアも「DIYバイオ」の普及によって最新技術・設備の恩恵にあずかろうとしています。
インターネットを覗いてみれば、栽培情報がいくつも公開され、初心者から上級者まで大変な活気があります。
多様化する栽培方法と園芸植物
時代の変遷により、要請される植物の種類は当然ながら変化がつきもの。
住環境や消費行動にも影響があるのは当然のことです。
もちろん、省エネの流れに即した栽培方法を園芸界もしっかりと考えるべきであり、否定するものではありません。
問題なのは、「一時的なブームだから」と変化を横目に傍観していることや、旧態然とした仕組みが続いていることが危険なのです。
僕はインターネット上で投稿される植物たちと、実店舗に並ぶ植物たちのギャップが、果てしなく解離していることに恐怖を覚えるのです…。
2019年。
今年もまた、栽培方法も栽培される園芸植物も、ますます多様化していくのだと思います。