暇すぎたこの正月。
ふらりと立ち寄った園芸店で地元産のシクラメンが398円で販売されていました。
なんで「豚の饅頭」って呼ばれるようになったの?
ところが、名札がついていなく、さらにはシクラメンの栽培方法もうろ覚えなので購入を断念。
帰宅後、いろいろと調べていると、シクラメンって植物的にも歴史的にも深い!と感じてきたのです。
シクラメンが豚の饅頭とよばれる理由
この「シクラメン」という植物。
別に「豚の饅頭(まんじゅう)」と呼ばれることもあるそうで、何とも変わった名前です。
豚のまんじゅうって言ったら「肉まん」じゃないの?と一瞬思いますが、その由来は人に食べられる豚のほうではなく、シクラメンが豚に食べられるから。
Wikipediaによると、
後に挙げた「ブタノマンジュウ(豚の饅頭)」の側は、植物学者・大久保三郎が この草の英名:sow bread(雌豚のパン=放し飼いの豚がシクラメンの球根を食べてしまうことから命名)を日本語にそのまま直した名前である。「カガリビバナ」の側はその花を、「ブタノマンジュウ」の側は その球根を見て名付けたものであると言える。
引用元:シクラメン – Wikipedia
とのこと。
いまや、豚のエサにするなんてもったいない!
事の発端は中世の時代。
中東やトルコ産の一部のシクラメンが豚の餌となっていたそう。
しかも食べるのはイモのように膨らんだ塊根の部分(一般的には「球根」とも呼ばれています)。
それが「パン」に見えたことから、日本では「饅頭」と訳されたのでしょう。
古くは豚の餌として扱われていたのがウソのように今ではガーデニングや年末の贈答品には欠かせない貴重な植物ともてはやされています。
クリスマスが近くなるころ、あらゆるお店の園芸コーナーにはずらりとシクラメンが並びます。
その一方で野生種は密かに採集され、いまや絶滅の淵に立たされているそうです。
そんなシクラメンは現在、野生種は国際条約によって売買禁止になっています。
シクラメンを巡るある事件
いつの時代かは分かりませんが、こんな事件も。
国際的な法律があるのにもかかわらず、あるイギリスの種苗会社は、トルコ産のシクラメン・ネアポリタヌムの塊根を大量に買い付ける指示を出したことがある。この種は耐寒性があり、厳しいイギリスの冬によく耐えるのだ。この取り引きは、売買を禁止する国際条約に反して行われたものである。一万個の塊根がイギリスに到着したとき、それらが以前に買い付けたものとは違っているようだった。
引用元:植物が消える日―地球の危機
いざ、到着した荷物を開けてみると、おやおや?以前輸入したシクラメンとは何か違う…。ハナシはさらに続きます。
船積みの際のまちがいなのか、確かめるためにサンプルをキュー植物園に持ち込んだ。驚いたことに、それはシクラメン・ネアポリタヌムどころではなく、非常に希少な種として知られる別種のシクラメン・ミラビレだった。これはトルコでも二カ所からしか採集の記録がないもので、しかも耐寒性はないのだ。当然イギリスでの栽培に向く種ではなく、冬を越すことはなかった。一つの種が、一時にして絶滅の危機に瀕してしまった。
(中略)
いまやほぼ絶滅してしまったと思われる。国際条約はこんな悲劇を防ぐためにあるものだ。この場合はうまく機能しなかったといえる。
引用元:植物が消える日―地球の危機
こうして希少な植物はほぼ、絶滅してしまうのです。
その根幹には地元の農民がわずかな臨時収入のために、この密輸にかかわっているのではないかとの指摘もあります。
安い人件費をもとに流行している地域でべらぼうな価格で売りさばく。
これは現在のコーデックス(塊根植物)などに共通するポイントではないでしょうか。
今すぐ欲しいから採ってこい!
いずれにせよ、豚の饅頭は豚だけでなく、人間もヨダレを垂らして採り漁る始末。野生種は消え、園芸品種は残る…。
今すぐこの植物が欲しいから、現地行って採ってこい!ということなのかもしれませんが、そういう植物愛好家にはなりたくないもの。
そして、加担したくはないものです。
それでも「シクラメン・ミラビレ[*01]」は「原種シクラメン」として園芸界ではまだ流通しています。
しかも人気です。
自然からほんの一部を拝借して、趣味家みんなでゆっくり育てていく…。
もちろん、枯らさないように枯らさないように大切に…。
園芸の本来はかくあるべきですが、いろいろと考えさせられるハナシです。
- Cyclamen mirabile [↩]