ここ数日、当ブログの閲覧者数がふわりと上がりました。その原因を調べたところ、趣味の園芸で多肉植物が特集、放送されたから。今月号の趣味の園芸は「特集 多肉植物」です。
2016年8月号と2017年9月号を読み比べると…
実は昨年の8月にも、「多肉植物 サボテン 真夏の集中講座」という特集を組んでいて、表紙だけみればほぼ同じ(笑)。
定期購読者からみれば、なんだかダマされた気持ちになるかもしれませんが、読んでみると昨年と今年の内容ではだいぶ違いがあります。そしてその違いを探ることによって、今後の多肉植物界隈がどのように変遷するのか、してきているのかが見えてくるかもしれない。今回はそんな試みで記事を書いてみます。
表題から「サボテン」が消えた
まず、言わずもがななハナシですが、特集題号から「サボテン」というタイトルが消えました。昨年の趣味の園芸テキストに目を通せば、実はサボテンとありながら、サボテンの話がほとんど出てきていません。
ニュアンス的には多肉植物という特集のなかで、サボテンという植物も扱っていますよ~みたいな構図…。残念ですが近年、サボテンがあまり注目されておらず、高グレードな苗の他は各店頭に並びもしません…。また多肉植物に比べると陳腐であったり、難儀な栽培を強いられる印象を抱く方が多いようで、毛嫌いされることも。
このことは声を大にして言いたいのですが、サボテンは難しくとも、古臭くともなく、栽培も簡単で植物学的にみればより進化した植物。また、日本の園芸界をリードしている生産者の方は「小さいころにサボテンを育てた」という方が案外多く、サボテン栽培はあらゆる園芸植物の下地となっているのだと僕は考えています[*01]。ゆえにそんなサボテンをスルーしてしまうことは寂しく思うのです。
とはいえ、2017年9月号では「花サボテン」を40年間栽培されている方が紹介されています。そう、サボテンが他の数多くの多肉植物より勝るのは、美しい花を咲かせること。花を咲かせることは手塩にかけたことの集大成。植物が身体を張って恩返しをしてくれるのです。
今号の趣味の園芸はサボテンも捨てたもんじゃないよと、そんなことを伝えようとしているのだと僕は読み取りました(笑)。
店頭ではコーデックスが台頭しはじめ、メディアが追いつけない
2013年末に発行された「趣味の園芸ビギナーズ」。このときの特集も「多肉植物」だったのですが、当時の僕は園芸店でみられる多肉植物の大部分は、この本に網羅されている。ゆえにこの本さえあれば、ある程度の多肉マニアとも渡り合える…と絶賛しました。
巻頭に掲載された、園芸店でよく販売される「エケベリア」や「セダム」、そして安価で小さなポッドに入っているサボテンをメインに紹介した「保存版 多肉カタログ」。これが良くできていて、初心者でもこのカタログにある多肉植物を頭に入れておけば事足りるのだと。
しかし、これらの植物は現在、園芸店の店頭から少しずつ淘汰されています。
その代りに「コーデックス(塊根植物)」と呼ばれる植物が園芸店のディスプレイを台頭し、徐々に知名度を高めています。
ところが現在、メディアはその流れについて行けていません。
SNSなどでコーデックスの人気が広まり、消費者はネットで栽培情報を補完するという状態が続いてるのです。感度の高い生産者やバイヤーが市場にコーデックスを流していますが、新奇性を求めるだけの消費者に向けての販売のように感じられ、すぐに枯らしてしまうのではないかという危惧を僕は感じます。
昨年には、一部コーデックスに関連する書籍が発売されましたが、情報の裏取りが浅く、一部コレクターから強いバッシングを受けたのも記憶に新しい…。
さらには普及種の多肉植物に関しては、多くの専門書が書店に並び、いまや飽和状態。にもかかわらず話題を呼んでいるコーデックスに注目した実用書は現在、ほぼほぼ無いのです。なので、ここで趣味の園芸が普及種の掲載を削り、コーデックスの紹介にページを割くのは当然のこと。むしろやっと来たかといったところ?
それでもオフラインで情報を得られる資料はまだまだ充足していません。今後もさらに、コーデックスなど話題の植物に関連した専門書や実用書の発行が望まれます。
普及種は食傷気味。コーデックスに販路を探る業界
ではなぜ、コーデックスが流行りだしたのか。
ひとつは多肉植物を趣味とする消費者のレベルも日を追うごとに高くなってきているから。昨年の8月号では「100円多肉からはじめよう」と、百円ショップで購入できる多肉植物を掲載していましたが、もはやこれらの普及種では食傷気味。ある程度経験を積んだ消費者なら、多肉植物コーナーやSNS上の異質なフォルムの植物に興味を惹かれるのは言うまでもありません。
さらにコーデックスは、普及種と呼ばれる多肉植物とは違い、20㎝~60㎝の中型の鉢が好まれます。ここにポイントがあるのですが、インテリア部門において多肉植物はあまり使い勝手のいいものではありませんでした。株は小さく可愛いものが好まれ、空間にアクセントを添えるには視覚的に若干、弱い。そこに摩訶不思議な樹勢を醸し出すコーデックスという植物に注目が集まるのです。
そして昨今の「植物と暮らす」というコンセプトによって、それまでにあったロハス的な生活感とマッチし、SNSなどで流行しはじめているのです。
見方を変えれば、この流れはコーデックスにとどまらず、ビカクシダやフィカスなど、それまでのインテリアプランツとは若干違う植物が好まれだしてもいるのです。そこに共通するのは、水遣りの回数の少なさ(管理の容易さ)と、フォルムの珍奇性(奇抜な演出法)、そして住空間の高気密・断熱化です[*02]。
如何に低いエネルギーで快適な彩られた暮らしを演出するのか。業界はコーデックスに限らずあらゆる植物に販路を探っているのです。
2017年9月号の読みドコロ
構成がほとんど「コーデックス」だという意味
そんなこんなで、今号の趣味の園芸はほとんどをコーデックスで埋められています。いわゆる普及種の多肉植物はほぼ皆無。趣味の園芸は読者や視聴者が多く、その層も多岐にわたるがゆえに、ここでコーデックスをぶち込んできた意義もきちんと読み取らなければいけないですよね(笑)。
なんといっても鶴仙園の鶴岡さんが解説する「コーデックス徹底解剖」は必読。いまだコーデックスの確たる栽培方法が流布されていない中、ここまで簡潔にまとめられた情報は趣味の園芸しかありません。特に「冬型・夏型コーデックス 栽培カレンダー」は目を通すべきです。普及種の多肉植物とは管理方法が違うことが多々あるので、頭に入れておきたい内容です。
多肉植物業界の次なる一手はナニ??
そして、これは趣味の園芸誌面に掲載されているものではありませんが、長田さんのインタビュー記事も面白いです。
長田研さんに多肉植物について聞いてみた!<前編>『趣味の園芸』9月号こぼれ話|トピック&ニュース|みんなの趣味の園芸
ウェブサイト「みんなの趣味の園芸」だけで読める連載「テキストこぼれ話」の第3回。『趣味の園芸』テキストの特集に関連して、おもしろそうなことや役立ちそうなことなどを載せていきます。
www.shuminoengei.jp
長田研さんに多肉植物について聞いてみた!<後編>『趣味の園芸』9月号こぼれ話|トピック&ニュース|みんなの趣味の園芸
www.shuminoengei.jp
生産者さんが語る業界のウラ話は興味深いものがあります。栽培場の写真や行間をじっくりと読めば、なにか見えてきませんか?(笑)。次なる一手をどう繰り出すのか。深読みして妄想してしまったアナタはもう植物中毒患者です(笑)。
そんなこんなで、今号の「多肉植物」特集。これまでイメージしてい「多肉植物」とは一風変わった内容に疑問を持たれた方も多いのではないでしょうか。まだ読んでいない、あるいは「コーデックスとは何か」と気になった方は手に取ってみてください。
流行する植物の変遷はますます早くなっています。正直、コーデックスのカテゴリー内でも流行する植物がいままた変わってきています。時間が経てばこの特集も古臭く思えてきてしまうのでしょう。だからこそ、この特集を読んで、今をつかむべし。でないともう、乗り遅れるよ。