ハウスをみて鉢をみず。「ドキュメント72時間」の園芸店をみて感じたこと

「ドキュメント72時間」を鑑賞

登場したのは東京の巨大園芸店

日々の仕事やら私生活に追われ、僕はテレビを観なくなりました。
観るのはもっぱら、仕事に行く前のニュース番組。
その他はレコーダーに録画しおいて、空いた時間に観るというライフスタイルとなっています。

で、この番組も仕事帰りに視聴[*01]。
観たのはNHKの「ドキュメント72時間」という番組。

そのなかで、東京にある某巨大園芸店に密着取材した放送回が10月9日(金)に放送されたのです。

僕もたまに行きますが、この店舗は東京で最も有名な園芸店のひとつで、流行にも敏感
多肉植物ブームの牽引もしてきた印象だし、なにより足を踏み入れた際の、都民の需要を供給しようとするテーマパーク感というか、ワクワク感は半端ありません(笑)

番組の内容は、72時間の取材期間中、植物を買い求めにやってくるひとをインタビューするというもの。
率直な感想を言えば、印象深い人ばかりがピックアップされているなぁ、と感じます。
まるで植物を買い求めに来る人は、こうも波瀾万丈なひとが多いのか!と錯覚してしまいます(笑)。
きっと、放送するほどでもない一般的なひとはカットされているのでしょう。
…そう願いたいところです(笑)。

さて、この番組はまだ再放送があるということで、ネタバレをしないように感想の本編を書いてみます。

キツいときこそ植物が心に染み込む

観ながら感じたのは、僕が多肉植物にハマったことと登場人物がわりと重なるのです。
以前もブログにエントリーしましたが、当時の僕は初めての仕事に心身共にボロボロ。

電車に乗っているのに、なんで自分が電車に乗っているのか。
なんで黒い服を着た集団に無言のまま囲まれ、窮屈な日常を過ごさなければならないのか。
自分でもよく分からないうえに、とにもかくにも「今」という「現実」から逃げ出したかったのです。
たぶん、パニック障害の一歩手前だったのでしょう…。

退職後はなにも手につかず、ただただ寝ては起きてを繰り返す日々。
そんなときにたまたま手に取った図鑑に「アドロミスクス」があり、そのなかの1品種が僕を突き動かしたのです。
東京なんて仕事や学校のために行っていたのが、ついには買い物のために出かけるまでに。
辛くてイヤだった東京の景色も植物を探しに行く「旅行」であれば、好んで足を運ぶようになったのです。

植物があったからこそ、つまらない日々が大きく変わる。

そういうことは全然、珍しいことではないと僕は感じます。
生きることが辛いとか、単調で苦しい日々にこそ植物は、彩を与えてくれます

コロナの影響で抑圧されたような、重たい空気感に嫌気がさしている昨今。
何気なく手に取った植物の奥深さや、面白味にハマってしまうひとは今後も増えるかと思います。

いまは「確変」の状態

今回登場したようなお店などに鉢物(鉢に植わった植物)を供給する仕事に従事する人間として、多くの方々に、奥深い植物の世界に浸ってほしいと思う。
いっぽうでせっかく興味を持ってもらったにもかかわらず、植物を枯らしてしまったり、育てることがイヤになってしまうひとへのフォローをどうするのか。

もっといえば、批判を承知で書きますが、現在はある意味「確変」の状態
コロナ禍という災いのなかで、運よく植物に触れるひとが多くなっただけ。
その意識もないままに「売れたね、良かったね」で済ましてしまうのは恐ろしいことと思うのです。
アフターコロナは確実に、いや旧来以上に園芸関連の支出は減ると僕はみています。
日常が戻り、植物とのコミュニケーションを図る時間が目減りし、手間暇の掛かる趣味は日常から遠のいていくからです。

だとすれば、引き続きメンテナンスの少ない植物を開発したり、あるいは栽培機器にコミットする商品を開発したり…、おっと。
どんどんハナシが逸れてしまうので、戯言はいったん終了です(笑)。

結論。目の前の1鉢にこそ。

つまるところ、何を言いたいのか。
痛烈に思い抱いたのは、僕らが育てた植物は結局、たったひとりがたった1鉢だけ選び、連れて帰るということ。
ハウスの中で大量に、まるで流れるように日々管理しているその鉢も、お客様には1鉢届くか、届かないか
多くの生産者はバイヤーに向けて仕事をしていると思いますが、川下には番組に登場するような、あらゆる思いを持って鉢を手に取るひとがいるのだということを身に染みて感じたのです。
だからこそハウス全体をみるのも必要ですが、いま目の前にしている1鉢も重要なのだと改めて思います。

木をみて森をみず。
いや、森をみて木をみず。
いやいや、ハウスをみて鉢をみず、ですね。

  1. 園芸業に従事してからは就寝の時間が早くなり、夜遅くまで起きられなくなったからです(笑)。 []

この記事を書いた人

mokutaro

植物好きが高じ鉢物業界に飛び込んだアラサー男子。群馬県に移住し、毎日、食べ(られ)ない嗜好性の強い植物とまみれています。 園芸を考えるブログ「ボタニカログ」を運営中。