【コロナの時間】農園芸業界は職場に「プレイリスト」を持ち込める?

「職場にスマホを持ち込むな」というのは、時代遅れも甚だしい理論だと感じています。
仕事中にスマホに集中力を奪われ支障をきたすことや、業務上で得た情報を漏らすことはもってのほかではあるもの、休憩時間にそこにはいない誰かとのメッセージをやりとりできるくらいの寛容性は持とうよ、と思うのです。

デジタルネイティブと情報端末

進む労働環境のパーソナル化

デジタル資本主義は公的な空間をパーソナルな空間へと変えるべく、あらゆる「場」へと進出しようとしています

昨今、コロナ禍によって「在宅勤務」や「リモートワーク」と呼ばれる働き方が推奨され始めています。
従来のように、複数人が同じ空間に集って働くのではなく、個々人が任意の場所で働けるように労働形態を変遷させ、ネットワークを介したコミュニケーションをメインとした働き方へと変化しつつあります。
そうなってくると労働者はどこでどんな恰好で仕事をしていても特段、叱責を受けることが少なくなるように考えています。
重要なのは働いたことによる「成果」であって、働いている最中の「プロセス」にはさほど重きが置かれはしないのです。
以前、このブログにも書いたように、「集団」よりも「個」をどう扱うかにシフトするようになります

僕らの働く農園芸業界は「作業」を伴うものであり、そんな先進的な労働環境は必要ない!…と思う方はたぶん、多いはず。
けれど、よくよく考えると、話はそう単純ではありません。

教育現場へのICT導入

2020年のはじめの緊急事態宣言のとき、多くの教育機関は「休校・休学」となりました。
そんなときに世論が求めたのは、休んでいる間も学業に支障をきたさない方法、つまりリモート学習の普及でした。
近隣諸国のICT学習の普及率は目覚ましく、東洋経済オンラインの記事には、

通常の授業ができないため、世界の多くの国が一斉にオンライン教育を導入しました。 とくに欧米では、かなり迅速にオンラインに移行しました。

アメリカでは、K-12(幼稚園年長から高校3年生まで)のレベルで、多くの学校が3月以降にオンライン授業に移行しました。 JETRO(日本貿易振興機構)の資料によると、中国ではオンライン教育が2019年6月時点と比べて81.9%も増えました(「新型コロナ禍の下、オンライン教育などの利用が拡大(中国)」、2020年7月2日配信)。

利用者数は4億2296万人で、利用率は46.8%です。2018年12月時点での利用率は24.3%だったので、2.1倍になったことになります。

新型コロナウイルスの感染拡大で、全国の小中学校、高校、大学で新学期の開始が延期され、オンライン学習に切り替わったのですが、教育部は、1月29日には、小中学校の休校期間中はオンライン授業を受けることで学習を継続する方針を発表しました。

韓国では4月9日以降、小学校から高校までの全学校でオンライン授業が開始されました。

香港やインドなどでも、オンライン教育への移行が進みました。

引用元: 日本のオンライン教育があまりにもお粗末な訳 | 野口悠紀雄「経済最前線の先を見る」 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準

とあります。
日本でも最近では「GIGAスクール構想」の呼びかけとともに、小中学生に1人1台の端末を配布する期日が明確に設定されるようになっています。
もはや、ICTを活用した学習は近未来の話ではなく、今日明日の話なのです。

これからはZ世代をはじめとする、生まれたときから高度なインターネット環境が身近にある「デジタルネイティブ」が、とうとう「学校」という公的な空間においてもデジタルツールと遭遇するということになる。
僕らは、画面上の「亀」を右に左に動かすという「プログラミング」をワケも分からず「技術」の授業でやったくらいです。
しかも当時は珍しかった冷暖房完備の「パソコン室」まで足を運んで…。
そんな思い出話とは否にもならないくらい、時間的にも質的にも、若年世代は情報端末と濃厚に接することになるのです。
いや、そのほうが学習効率がよく、教育への成果が高いとされているのならば、そうせざるを得ないでしょう。

そうなると「スマホ持ち込み厳禁」な職場は、彼らに受け入れられますか?というハナシになってくる。
就労時間中にスマホを手に取り、なんらかのアプリを起動し、画面を注視する…ということには「マナー」や「リテラシー」として躊躇うかもしれないが、ふとした計算や調べ物をスマホを通して瞬間的に行うことなど、彼らにとっては息を吸うことと同じくらい当たり前なこと。
それらの行為を制限されることは、彼らにとっては羽を折られたような、苦痛以外のなにものでもない…のです。

席巻する「耳」を介した市場

さらに最近気になることは、あらゆるコンテンツ市場が「耳」をターゲットとしていることです。
僕らは何らかの作業をしているときに、ネットフリックスやユーチューブを凝視することはほぼありません。
とくに何もしないような、生産に関わりのないときに媒体に目を向け、コンテンツに入り込むのだから。
ところが、昨今話題の「clubhouse」は、音声のみのSNSで、別の作業をしながらでもコンテンツを利用できるものです。
アメリカでは国土が広く、通勤などに長時間クルマを使う層が多く、そのためにPodcastなどの音声配信サービスの利用も多い。

「REUTERS INSTITUTE」と「UNIVERSITY OF OXFORD」が行った調査「Degital News Report」のデータによると、「先月『Podcast』を利用したことがある人は?」という質問に対して、アメリカでは「18歳〜24歳」の54%が最も多く、「25歳〜34歳」が53%、「35歳〜44歳」が41%と、若い人ほど、「Podcast」を聴いていることがわかった。

引用元: (2ページ目)海外で人気沸騰!今、ポッドキャストが急成長している理由|@DIME アットダイム

ゆえにいま、podcast関連の買収が繰り返され、熱い市場となっています。

更にApple Podcastsのダウンロードとストリーム数をみてみると、2014年には70億だったのが、2016年には105億、2017年には137億に、そして2018年には500億となっています。 これらの情報から、音声メディアは世界的に広がっていて、尚且つ飛躍的な成長を遂げていることがわかります。

引用元: 音声コンテンツの未来とは?音声メディアが切り開く音声市場

また、スマートスピーカーやワイヤレスイヤホンの普及も音声コンテンツの興隆を後押ししていると言います。
特にワイヤレスイヤホンは、コードがないために身体的な可動域も増えるので、コードがあるときよりも作業への汎用性が高くなっています
アップルが発売している「AirPods」などは、周囲の雑音をイヤホンが排除してくれる「ノイズキャンセリング」機能や、逆に周囲の音をイヤホンが拾って音声コンテンツの邪魔をしない「外部音取り込み」機能を持つバージョンも。
常に耳にイヤホンをつけ、リアル空間には存在しないパーソナルな音声環境を個々人が常時装着しているという、数年前には想像もしないイヤホンの利用が進んでいるのです。

労働の現場にも音声市場がやってくる

リモートワークでもイヤホンの需要が高まる

これは若者の話だけではなく、リモートワークによってイヤホンが必需品となったひとも多かったようです。

AirPods Proは、日本でシェアの高いiPhoneとの相性が良く、電車通勤の多い日本の生活スタイルにも合っていたため人気が沸騰。税込み3万円前後と高価にもかかわらず、発売直後は1カ月待ちになり、入手しにくい状態が続いた。

そしてこの勢いは、新型コロナの感染拡大で通勤が減っても衰えなかった。AirPods Proは、急激に拡大したテレワークにもマッチしていたからだ。家で仕事をしていると、家族の話し声やテレビの音声などが意外に気になるもの。AirPods Proがあれば、雑音を打ち消しつつ、静かな環境で働くことができた。周囲の話し声などに対応する必要があるときに便利な「外部音取り込みモード」も備えており、ワンタッチで切り替えられた。

また、競合製品に比べてマイクの性能が高く、「Zoom(ズーム)」などのオンライン会議システムでヘッドセット代わりに利用する人も多かった。テレワークによって、AirPods Proは「1日中必要なイヤホン」にランクアップしたともいえるだろう。

引用元: アップルAirPods Proが圧倒 テレワークも追い風に|NIKKEI STYLE

最近では、「骨伝導イヤホン」の発展と低価格化が進み、耳をめぐるデバイスの進化に目が離せません(耳も離せません)。

単純作業にはBGMを

さらにさらに。
僕らの労働環境には、もしかしたら何かしらのBGMを導入したほうが良い場合もあるかもしれません。

もともと工場での生産性アップのためにBGMが使われたように、音楽は「単純作業」に高い効果を発揮します。単純作業は脳への負荷が低いため、音楽が邪魔になりません。音楽を聴くことで眠気を防止できますし、音楽のリズムが作業のテンポに影響し、効率アップにつながります。 「脳への負荷が低い」という点では、「得意な作業」をするにも音楽は有効です。これまで何度も繰り返し行ってきたような、自分が難なくこなせる業務の場合、音楽がパフォーマンスアップにつながります。

国際的な医学雑誌『Journal of the American Medical Association』に掲載された記事では、外科医は手術中に自分の好きな音楽が流れているとき、もっとも集中できる」という研究結果が伝えられたこともあります。

引用元: BGM選びで業務効率に差が出る!在宅勤務でも仕事に集中できる音楽とは? | リクナビNEXTジャーナル

そういわれれば、農作業中にラジオを聴くひとは少なくありません。
僕もPCを使う仕事から園芸業界に入ったので身をもって言えるのですが、ひとつの画面に集中する「作業」よりも、農作業の方が「単純作業」です
眼前に現れては消えるあらゆる情報を右から左に動かす行為ではなく、単一の行為を右から左にこなす行為が多いがゆえに、手が慣れる。
慣れてしまえば、作業への精度も高くなるからこそ、量をこなすことができる。
そして、量をこなすことこそが農作業のもっとも要求されるベクトルです(クオリティも大切だと反論されるかもしれませんけれど、現場にいると要求される能力は、いかに量をこなすか…がメインですよ。そんな単純作業をくりかえすことによって、質の高い製品をつくる練度も高まるのです)。
そんな同じ作業を繰り返すこと=単純作業であると僕は考えています。
だからこそ、今も昔も毎日きいていたラジオの情報、いわば耳に入ってくる情報への理解力は格段に現在のほうが精度は高いのです。

ちなみに思うのは、農業と音楽の親和性。
現在の職場でもラジオをかけていますが「いつも畑で聴いています」など、明らかに農作業者も頻繁にラジオ局にメッセージを送っています。
農業資材の店舗に足を運べば、農作業中に使うための「防水ラジオ」も良く売られていたりもする。
または古くには、唄いながら農作業をするのは、重労働による肉体的・精神的疲労への回避でもあるといいます。
つまり、作業中に何らかのBGMを流すことにはもう、農園芸業界には親和性が高く、当然にある行為であって、その音波が「集団に届くか」「個人に届くか」くらいの違いにしかなっていないようにも思うのです。

「プレイリスト」の持ち込みにどう対応すれば良いのか

結論。
他産業の労働者が耳をあらゆるプラットフォームに委ねていると同じように、農園芸業界にもその波が押し寄せてもおかしくはないな、と感じるのです。
いずれ農園芸業界などの第一次産業にも、こうしたパーソナルな労働環境が推進されるだろうと僕は考えています。

最近の報道をみるにつけ、携帯料金の値下げが断行されるいっぽう、通信容量は増加傾向。
息をするように「ギガの減少」を意識する世代と僕らとではもう、感覚が違うのです。
デバイスとともに日常を過ごすことが、半ば当たり前になっています。
そのときに「好きな音楽を聴いて仕事できるのが僕らのスタイルだ」と主張する先鋭的な農業集団が出てきても何ら不思議ではありません。
あるいは「農業をするときに聴くプレイリスト」が話題を呼んでも、僕はもう驚かないし、むしろすでに存在しているかもしれません。

じゃあ、そうなったとき、僕らはどうすれば良いのか。

もはや、推進せざるを得ないでしょう。
スマホを持ち込むことを許可し、個々人がそれぞれのイヤホンをつけることも許されるような環境にならなければ、新時代の労働者を取り込むことができなくなる。
一方的に禁止するのではなく、集団の許容範囲のなかでしっかりとマナーを決めていく
使用を制限する理由は多様にあるけれど、一律に禁止する理由をみつけるほうが難しくなっているのだから。
たとえば、コミュニケーションが必要な作業の場合は「外部取り込みモード」にしておくとか、危険な作業を伴う場合は使用に制限を設けるとか。
それにも合理的な理由が必要になってくるはず…。

いや、待てよ。
スマホなんて旧いデバイスではない、違った機械を装着しているかもしれません。
10年前はまだまだ、ガラケーが主流でしたから…。
もっとも2030年の頃には人間が農作業に従事していないかもしれません…。

この記事を書いた人

mokutaro

植物好きが高じ鉢物業界に飛び込んだアラサー男子。群馬県に移住し、毎日、食べ(られ)ない嗜好性の強い植物とまみれています。 園芸を考えるブログ「ボタニカログ」を運営中。