ここからは僕の思ったことを書き記していきます。
「珍奇植物・ビザールプランツ(Bizarre Plants)」のそもそもの定義
「珍奇植物」は高くて「レア」。そう思っていました
まず、「珍奇植物」の定義が揺らいでいるなぁ、と感じます。
センセーショナルに「ビザールプランツ(Bizarre Plants)」という御旗のもと発刊されたブルータス。
これを読んだ僕の直観は
珍奇植物は珍しい。ゆえに価格も高く、ハイグレードな植物が「ビザールプランツ」とされてしまう
参考:『BRUTUS』2015年9月号を読む。「珍奇植物(Bizarre plants)」とは、ハイクラスな植物である。 | ボタニカログ
と感じたのです。
珍奇植物はそもそも、あまり出回ることがないからこそ「珍奇」であって、だから「レア」という付加価値がつくのだと…。
そもそも、珍奇植物ってなに?
単純に「珍奇植物」とは、
根や茎が肥大した植物「コーデックス(塊根植物)」をはじめとする植物群の総称
である、というのが一般的な認識だと思います。
そこにファッション性などが付随され、近年まれにみる多肉植物などを含めた「観葉植物ブーム」が起きているのだと。
また、
一部コレクターが蒐集していた希少な多肉植物・サボテンや熱帯植物なども、そのフォルムが見直され珍奇植物にカテゴライズされることもある
多くの人が認識している「珍奇植物」の基本的な意味合いは恐らくこの辺ではないでしょうか。
ただし、ひとくちに「珍奇植物」といっても種類は多いし、正直良く分からない。
そんな方はこの先も読んでみてください。
関連本から「珍奇植物」を探ってみる
BRUTUS以前の「珍奇植物」を取り扱った本
古今東西、あらゆる植物が「珍しい」とか「奇妙だ」「不思議だ」などと紹介されてきました。
ここでいまの「珍奇植物」という流れはどこから来ているのか。
憶測と偏見をもとに、過去に出版された本の内容から探ってみたいと思います。
まず、ここで述べていく珍奇植物とは主に、鉢植えで栽培可能な植物を取り扱ったものであることと定義しておきます[*01]。
僕の知る限り、鉢物で個人が栽培可能な「珍奇植物」を取り扱った、いちばん古い書籍はコレ。
絶版し、作りも凝っているため損壊しやすいのです…。
ゆえに(価値の分からない)某大手古本屋は棚に置かれる前に処分されてしまうのではないでしょうか。
1巻で「観葉植物」、2巻で「サボテン・多肉植物・エアプランツ・食虫植物」とカテゴリーが区別されています。
なかでも2巻目は現在の珍奇植物ブームをけん引するコーデックスをはじめ、今でも人気のある植物が多数紹介。
初版の1998年当時にこれだけの特集が組まれていたことは特筆すべき点であると思うのです。
その後、2005年に「スマイルプランツ」という書籍が発刊。
こちらはやや「普及種」が多めであるものの、そもそもが初心者の方に向けた、少し珍しい植物の紹介といった構成です。
現在でも、大きな園芸店や植物の入荷に力を入れているホームセンターなどで見かける植物がいくつも掲載されています。
「珍奇植物」には興味があるけれど、どれを買えばいいのか分からない…。
そんな方へは、この本にある、ちょっと変わった植物からはじめる…というのも一つの手かもしれません。
最近だと2012年に発刊の「マジカルプランツ」。
こちらは「食虫植物」「多肉植物」「ティランジア」と3つの部類が紹介され、どちらかといえば栽培指南書というよりも「読み物」。
変わった植物を愛好するにはどんなイベントに参加すればよいのかとか、アクティブに植物を楽しむためには有益な書籍です。
ちょうど多肉植物のブームが勢いづいてきた頃で、マイナーな植物たちが徐々に認知されていくワクワク感が随所に読み取ることができるのです。
BRUTUS「珍奇植物」の衝撃
思うに「珍奇植物」にカテゴライズされるような不思議でかつファッショナブルな植物群は、以前から一部の人には耳目を集めていた。
名前も「ワンダフル」「ハッピー」「マジカル」などと、たくさんの名称が付けられ、徐々に人気を博していく…。
そして「珍奇植物」という名を世に知らしめた「BRUTUS」の珍奇植物特集が満を持して、2015年に発刊。
これまでに紹介した書籍よりも幾段階か「濃い」植物が掲載され、そのフォルムやフィーリングに多くの人が心を惹かれたのです。
下地は脈々と作られていた
つまり、突如として「珍奇植物」なるカテゴリーが登場したのではなく、実は十数年前から脈々と下地が作られていた…。
そしてちょうど、多肉植物ブームが到来し、多肉植物に関連する見慣れない植物や、普及したSNSを通じて奇抜なフォルムの植物に注目が及ぶ。
「珍奇植物」に至るまで、あらゆるメディアの試行錯誤が投じられてきたのです。
僕はそう認識しています。
で、結局「珍奇植物」は何なの??
時代によって変わる「珍奇」さ加減
で、ここからが本題。
以前に放送された「沸騰ワード10」では、ありきたり[*02]な植物も、まるで「珍奇植物」のように取り上げられていました[*03]。
さらには、エアプランツのシーンを観ていたときのこと。
いまは「珍奇植物」かもしれないけれど、流行のために生産が増え、供給が追い付けば「珍奇植物」ではなくなるのではないか…?
そんな疑念が頭をよぎったのです。
江戸園芸が盛んだったころに比べれば、なんとも日本の園芸文化は変わりました。
西洋の園芸手法が輸入され、バラなどの花卉が流通。
新しい種類の植物は、あっという間に朝顔・菊・花菖蒲などを愛好する江戸園芸を飲み込みました。
きっと、この時代の人たちが現代に流通している植物をみたら腰を抜かすはずです。
…と書いている僕も、100年後には新しい植物の発見や開発で、腰を抜かすに違いありません[*04]。
「珍奇植物」の定義って何だろう?
そう考えると「珍奇植物」の定義がよく分からなくなってきませんか。
そもそも、珍奇植物はどれなのかと選定するのが難しい話で、流行や廃れによっても、珍奇な植物は変化するように思うのです。
珍奇だと思う植物は時代によって変わるのですから。
ならば、この「珍奇植物」とは何なのか。
僕らはどう捉えればよいのか。
このことを考えたとき、答えは歴史にあるのかもしれないと気が付きます。
明治維新の時代、西洋から新しい植物が輸入され、日本の園芸文化を変えてきたように、いまも同じことが起こっているのはないでしょうか。
「珍奇植物」=「未来に流通する植物」?
実は、この「珍奇植物」というカテゴリーは「レア」でも「ハイグレード」でもなく、単純に未来に流通する植物なのではないか…。
そう感じてきたのです。
「珍奇植物」をただ「価格が高い」とか「管理が難しい」などと思考停止をしてはダメで、実は、今後少しずつ流通量の増える植物なのだと捉えるべきです。
そうすれば、上記のエアプランツについても説明がつきます。
また、LED照明や加温器具の進歩もあり、一昔前であれば個人が栽培するには難しかった植物も、いまでは比較的容易に育てられるようになりました。
サボテンや多肉植物の間違った栽培方法も少しずつ取り払われ、一部の蒐集マニア(笑)から解放されつつあります。
一昔前の(凝り固まった)園芸文化が、きっかけがあれば大きく変化する…。
そんな前兆を予感させます。
なんてことはない「珍奇植物」はただのコピー
つまり、「珍奇植物」とは、今後流通させたい植物をどこかの誰かがインパクトのあるカテゴリー名で括ったもの。
先に紹介した書籍にもすべて、キャッチ―なタイトルがついていたではありませんか。
勘の良い人なら「流通のためのコンセプト」であると気が付いたかもしれません。
あと一歩のところにある、珍奇植物を普及させまいとするストッパーをいま、どこかの誰かが、どうにかこうにか外そうとしているのかもしれません。
だとすると、植物愛好家の僕らは何をするべきか。
それはきっと、地道に未来に流通するであろう植物を分け隔てなく育て、栽培方法を広めること。
こんな植物があるよと他の誰かに紹介すること。
もし普及を阻んでいるストッパーが外れたとしても、大量に植物を枯らさなくても済むように…。
そして、それらを後世に残していくこと。
こんな風に珍しい植物が流行した時代があったのだと、歴史として遺していくのも大切です。
「珍奇植物」だから難しそうとか、「高いから枯らせない」とか、やらない理由はいくらでもあります。
でも、機会に恵まれたのなら、恐れずに育ててみるべき。
そして、この情報化社会の中に、栽培経験を流し込んでほしいと思います。
珍奇植物を育てるには知識と覚悟は必要
2018年6月13日:追記
ただし。
この珍奇植物ブームが起こってから、あらゆる事象が起きました。
列挙すれば
- ブームに乗りインスタグラムに乗せたらハイ、廃棄!
- ネットオークションでただただ売買を繰り返すだけ
- 高い売値が付くからと誰かから盗む
- 原生地から違法に盗掘する
- 人気だからとB級品C級品を高額に売る→すぐ枯れる
などなど、枚挙にいとまがありません。
ブームが先行してしまい、どこか中身がない。
また、あまりにも目に余る事件や出来事を、SNSやニュース、それから関係する人から見聞きするにつけ、何かが足りていないような気がして仕方がありませんでした。
それは何か。
僕が思うには、まだまだこれら珍奇植物の栽培方法が世に知れ渡っていないということ。
いや、知らせるべきメディアが室内にコーデックスをデ~ンと置いて、まるでいつもそこで栽培しているかのように「植物との暮らし」を演出・広告しているうちは無理かもしれません。
植物を買って長く楽しむためには、最低限、枯らさないための覚悟と、それに伴う水やりなどの行動力。
さらには栽培するための知識が必要です。
それらをただただファッショナブルにすっぱ抜いて喧伝することは、僕は断固反対したい。
デロンデロンに溶かして「やっぱり珍奇植物を育てることは難しかった」なんて思われたくはないですから。
2018年6月15日はBRUTUS「珍奇植物」の第3特集。
どんな内容か想像もできませんが、読み終えたらまた読後感をブログに記録しておきたいと思います。
2019年8月11日:追記
この投稿で「珍奇植物」の流れはどこからきているのかを、本をとおして探ってみました。
するとBRUTUSの珍奇植物特集第4段に、荒俣宏著の「珍奇植物」であることが明かされたのです。
いや、明かされたのは珍奇植物とはなにかという定義であり、ルーツではなかったのですが…。
詳しくはこちらの記事をご覧ください。