『多肉植物パーフェクトブック』を読む。コーデックスを含む多肉植物の基本的な栽培法を学べる本。

昨年ごろから「多肉植物」に関連する書籍がドッと多数、出版されました。
そのなかのひとつNHK出版さんの「多肉植物パーフェクトブック」を読みましたので、記録します。

「多肉植物」の変遷。20年間で掲載品種が大きく変わった

2019年7月に発行された「多肉植物パーフェクトブック」。
僕はこの本を読んで、多肉植物と言うカテゴリーのなかにある品種が年を追うごとに変遷していることを実感しました。
この10数年であらゆる品種が世に知られるようになったのです。

どう変わってきたのか。
同じくNHK出版さんから発行されている書籍から辿ってみます

2000年代は「ベンケイソウ科」が主流

まずは僕が多肉植物をはじめるずっと前(2001年)。
NHK出版さんから発行された「多肉植物 ユニークな形と色を楽しむ」というムックを紐解いてみます。

内容はそのほとんどが、ベンケイソウ科をはじめとするセダムやエケベリア、それからカランコエなどで構成。
いま読めば少し地味目で、けれども多くの人に長年愛されてきた品種が一様に並んでいます。

なかには柳生真吾さんの作品も掲載され、多くの人に少しずつ「多肉植物」というジャンルが認識されつつあった時代なのだろうと読んで感じます。

2010年代初頭は流通品種も増え、よりカジュアルに。

次に目を通したのは「趣味の園芸ビギナーズ」のテキストから発行された「はじめて育てる!多肉植物 サボテン」という本(2014年)。

こちらは当ブログでも紹介しています。

内容は上記のムックよりも奇抜な多肉植物が増え、されにはサボテンも掲載されていることなどから、ボリューム感が満点。
アレンジ方法もよりカジュアルに、より華やかな印象を受け、すでにSNSで写真を撮りアップするという行動様式が確立していることもうかがえます。

そのうえで、

  • 多肉植物を愛好する世代が幅広くなったこと
  • それに伴い、鑑賞方法が多様化
  • 特に男性からの「格好良く栽培する」という概念が普及

したように思います。

ただ、まだまだコーデックス(塊根植物)のような珍奇植物の類は、ほんの一部だけしか掲載されておらず、まったく主流ではありません。

2010年代半ば、珍奇植物の台頭。しかし書籍がない…。

そして2015年。
BRUTUSが「珍奇植物」を特集したことから一気に「コーデックス」に注目が集まりだします。

ところが多肉植物に関連する書籍は、そのほとんどがコーデックスに関連する情報を載せられずにいました。
そうしているあいだにも園芸店などにはコーデックスへの需要が高まり、店頭に並び始めます
しかし、ネット上には情報があるものの、書籍としての情報は多くない。
そこで僕はこんな投稿をしたのです。

彼女に僕の愛してやまない(愛すべき媒体を間違えている)植物を説明しようと、書棚から多肉本を引っ張り出す。
ところが、コーデックスや南アフリカの球根植物の類について、平易に説明できる本がない!!
このとき、紙の本が遅れていることに気が付いたのです。

満を持してコーデックスを含む「多肉」本の登場

そして、2019年。
待望のコーデックス情報が掲載された書籍がNHK出版さんから発売されたのです。

「多肉植物パーフェクトブック」を読んで思ったこと

中を紐解くと、

  • コーデックス
  • ハオルチア
  • エケベリア
  • サボテン

をはじめ、

  • メセン類
  • ユーフォルビア
  • アガベ&アロエ
  • その他

など、2010年代初頭とはだいぶ様変わりした、園芸店頭のラインナップに追いつける内容となっています。

やっと園芸店のラインナップに追いついた

この本の特筆すべきところは、「多肉植物とは何か」を網羅しているところ。
はじめてコーデックスを育てる!と意気込んで、雑誌やムックを買うも、大抵は誌面の制約などからコーデックスの特集のみしか掲載されません。
もしも初心者がコーデックスの隣に売られていたエケベリアを一緒に購入していたら?
それはもう、従来の書籍をあたるか、ネット上の怪しい栽培情報を参照する以外ありません。

けれどこの本には、旧来から栽培が盛んな、いわゆる「定番モノ」もほんの少しだけカバーできています。
つまり、この本を1冊もっていれば、多肉植物の栽培法の基本から、園芸店に並ぶだろう多肉植物の基本的な概要を知ることができるのです。

特に趣味の園芸などで特集されていた、100円均一で購入できる多肉植物についてのページは、初心者が陥りやすい損するポイントに話が及びます。

ついつい100円だからと多肉植物を買っても、置き場所や水やりの加減でヒョロヒョロに…。
SNSをチェックしていると、そんな投稿に出会うことが多々あります。

いまや当時(2016年)の趣味の園芸を買う人はあまりいないと思うので、100円均一の多肉植物で失敗したことのある人もこの本を手に取ってみてはいかがでしょうか。
きっと、多肉植物への世界観が広がるはずです。

とはいっても基本の栽培は時代によっても変わらない

そしてNHK出版さんから出された3冊の本を並行して読むと分かること。
それは品種は変われども、栽培法は変わらないということ。

多肉植物の栽培は大別して3種類に分けられます。
それを「生育型」と言い、

  • 春秋型
  • 夏型
  • 冬型

の3つが多肉植物を育てるうえで重要となるのです。
例えば春秋型だったらベンケイソウ科やハオルチアの大部分が該当し、夏型だったらパキポディウム・グラキリスなど。
冬型であればメセン系などがその部類に入ります。

つまり、時代によって掲載される内容が変わっても、栽培方法を知りたい品種の生育型さえ分かれば、アバウトな育て方は分かるのです。
2000年代に発売された「多肉植物ユニークなー」は、これらの生育型について、1ページだけの触り程度の掲載ですが、「はじめて育てる!」以降、生育型による栽培方法が強調される。
つまり、多肉植物の栽培においては生育型が重要であり、生育型を理解しておくことが、多肉植物を理解する第一歩となる…とも読めます。

とはいえ、植物の種類や特性によって、きめ細やかな管理が必要だったり、基本的な生育型とは少しずれた動きをする植物もあったり。
植えた時期、育てる環境・地域によってもだいぶ違いますし。
自動車で言えば、サイドブレーキの役割を認識したうえで、車によっては踏んだり引いたりと、異なる操作法でサイドブレーキをひくでしょう。
サイドブレーキ然り、植物によっても「手順」は変わってくるのです。
あくまでも、「指標」として頭に入れることが大切だと思います。

制御可能な範囲内で植物をコレクションする次世代園芸

恐らく今後も、未知なる植物が市場に投入されることだと感じます。
いまは日の目を見ていない植物でも、ふとしたきっかけで面白さや付加価値が見いだされ、爆発的に人気になることも多々あります。
そしてそのたびに、怪しい情報や不確かな情報に僕らは惑わされてしまうのです。

けれど、生育型や、植物のそもそも暮らしていた地域の気候などを調べると、案外答えは見つかるもの。
長年、植物を趣味として育てていると、地下水脈よろしく他の品種の植物と栽培方法が相通ずる場合もよくあります。
それを繰り返し自分の住まう地域や、管理の頻度を考慮して、自分なりに栽培方法を「固定化」していく。
実はそんなところも植物を栽培する上での醍醐味だったりするのです。

また、世に出回る植物はどんどんシームレス化して、ジャンルが取り払われようとしています
サボテンだけを育てる、ランだけを育てる、山野草だけを愛好化する…という人は少なくなりつつあると僕は認識しています。
次の世代は恐らく、

自己の周囲にある栽培環境内で制御可能な範囲の植物を特に愛好する

ようになると考えています。
簡単にいえば、植物を種類ごとに育てるのではなく、手持ちの栽培空間のなかで育てることのできる植物を愛好する。
だからこそ、これまで以上に細やかな栽培方法が重要となると思うのです。
そしてそれに合うように植物が生産され、販売されるのです。

ここまでの考えに至る経緯はいつかこのブログに書いてみようと思います。
そうなる前の、栽培方法のイノベーション直前の、多肉植物の基本。
それが「多肉植物パーフェクトブック」には書いてあるのです。
初心者の方向けで分かり易く、いま、この時代に押さえておいても損はないと思います。

この記事を書いた人

mokutaro

植物好きが高じ鉢物業界に飛び込んだアラサー男子。群馬県に移住し、毎日、食べ(られ)ない嗜好性の強い植物とまみれています。 園芸を考えるブログ「ボタニカログ」を運営中。