観ました!清順さんの番組「NHKスペシャル|地球を活け花する~プラントハンター 世界を行く~」。
NHKスペシャル|地球を活け花する~プラントハンター 世界を行く~
結論から書けば、清順さんが抱く「植物の可能性」とは何かが分かる番組でした。
番組の内容をざっと記録しておきます。
番組の内容をざっと。
※清順さんの言葉など、内容を一部、筆者が改変しています。
番組冒頭
世界中から珍しい植物を探してくる、現代のプラントハンター・西畠清順。
世界が彼を認める理由は、彼が届けた植物にみる人の心を動かす力があるから。
兵庫県川西市に明治時代から100年続く、植物の卸問屋がある。清順さんはその5代目。事務所のスタッフは20人ほどだが、ここには世界中から年間2000件もの仕事依頼が来る。都市開発など、規模の大きいものある。そんなあらゆる依頼にもこたえられるよう、秘密の植物園ともいえる温室がある。
温室以外にも大物が数多く集められ、テーマパークや商業施設からの引き合いも多い。インパクトのある植物は清順さんの判断で日本に運んでくる。
パラボラッチョをハンティング
昨年(2014年)4月のこと。ずっと探していた南米原産の「パラボラッチョ」がみつかったという。名前の意味は「酔っ払いの木」。丸々とした幹がビールっ腹に似ているから。
早速、アルゼンチン北西部・アンデス山脈麓に旅経つ清純さん。世界中のプラントハンターの中で、依頼が無くても植物を探すのは清順さんくらいだそう。
現地へ到着後、ハサミとひもとのこぎりだけを持ち、現地のガイドとパラボラッチョの生える森へ一緒に出発。
探し出してから半日。立派なビールっ腹のパラボラッチョを発見!しかし、樹肌はトゲトゲで、根はすでに掘り切られていた。実は2年前、同行のプラントハンターが運び出そうとしたが、トレーラーが入らずに断念したとか。
とはいえ、立派なパラボラッチョ。何としてでも日本へ持ち帰りたい。清順さんは、その樹のコンディションを確認します。樹をくまなく確認したところ、枝が腐ってしまっている。結局、そのパラボラッチョはあえなく断念。他の樹を探すことに。
探し始めて2日目。やっと見事なビールっ腹のパラボラッチョとと出会う。掘り起こす際は、休眠させるため、葉という葉を切り落とし[*01]、大切な根を切断する。大事なのはクレーンで傾きをコントロールし、根に亀裂が入らないようにする。
作業をしてから半日。やっとのことで樹齢100年・3トンのパラボラッチョを無事に掘り終えることができた。以後は日本での植物検疫に備え、今回掘った計4本のパラボラッチョを日本へ送る作業を行う。スムーズに事が運べば、4か月後の9月には日本へ届くはず…。
清順さんは「日本に届いて、ちゃんと芽が出てきた時がいちばんうれしい。そのために何千万と、お金をかける時もあれば、自分の身に危険が迫ることもある。でも、芽が出たときに良かったなぁと思える。その繰り返し」だと話します。
清順さんの生い立ちと植物の持つ力強さ
清順さんの家は代々、華道家のための植物を卸してきたプラントハンター。植物を切り、活かし、人に見せる意味。それは命ある本来の姿を凝縮してみせることではないかと、清順さんは思い続けてきた。
「自然に生えている植物ほど、生きることに一生懸命で、生きることにストイックで、どうやったら人の心に届くかな。一本の木を俺が持っていくことで何が伝わるのかな伝えられるのかな?」
4代目の父親は、植物を心から愛している男だったが、少年時代の清順さんにはその魅力が分からなかった。しかし、21歳のとき。放浪していたボルネオ島キナバル山で、オオウツボカズラに出会う。壺の中の液体で、動物の糞や昆虫まで溶かして生きていく。その存在の逞しさに心を揺さぶられたそう[*02]。
家を継ぐ決心をした清順さんに待っていたのは、父親からのスパルタ教育。日本全国の同業者に修行を命ぜられ、伊豆・富士山での山籠もりするが、あまりの辛さに逃げ出したことも。それでも、ひたすら松を切り出すなかで、植物の持つ生きる力に気づいたそう。
松は強い潮風に晒され、それでも生きるために、力強い枝ぶりになる。
「人間と同じで、厳しい人生を歩んで、いろんなことを経験して、年老いた人と同じように、味が出る。木はそれが形になって出る」
樹齢600年のオリーブと日本人の暮らし
ある日、スペイン・バレンシアのオリーブ農場へ。そこには樹齢100年~1000年という8,000本以上の古木があつめられている。清順さんはその魅力を世界に伝え、いま、観賞用として注目が集まる。枝を無理に伐らず、できる限り「ありのまま」の姿を残す[*03]。こうしたオリーブの古木を日本の都会の中に置き、観る人に何かを感じてほしいと考えていた。
いよいよ、東京の大崎駅近くにオリーブを植える、大規模な都市計画が動き出す。その現場に、スペインからの樹齢600年のオリーブを植樹。オリーブはその中心的な存在となる予定だ。残された課題は庭全体のプラン。ところが現場から「(提案していた)銀杏が汚くて、臭うんじゃ…」と不安の声が上がる。日本人の暮らしと自然との距離が確実に遠くなっている証…。
「田舎の人だったら、あの生臭い匂いを感じたら「もう栗の花やな」って。そういうコンセプトを提案したら「それは素敵だ、特色にしたい」となるけど、最後の最後には、実が落ちると服が汚れるとか、銀杏のにおいがキツイからとなる。そこといつも戦っている…」
パラボラッチョの危機
8月、パラボラッチョがアルゼンチンから到着する予定ではあるが、まだ船にすら乗っていなかった。秋に届けば樹にとっては危険。どうにか飛行機で空送できないかを検討する。コストのことを考えると高くつくが、飛行機で1~2日で運べばリスクが少ない。とのことで、飛行機での輸送を決意。
清順さんは、農場にブロックを積み上げ温室をつくる。売り先はまだ決まっていないけれど、リスクを背負ってやる方が魂がこもる。本気になる。…と。
1か月後、有名イベントがシンボルツリーとしてパラボラッチョを選んだ。問題は現地の樹の状態…。
10月、アルゼンチンの手続きを終え、日本へ到着。植物検疫が通るかどうかが、いちばんの心配事。5か月ぶりにパラボラッチョと再会した清順さんは、樹の健康状態を調べる。カビっているけれど、悪くはないと判断し、いよいよ植物検疫。病害虫などが見つかれば、最悪の場合は処分となるが…。
結果は「合格」。そこには「よっしゃ!」と喜ぶ清順さんの姿が。あとはどのようにパラボラッチョを観る人に伝えるか…。
みんなの目に、手に触れられたパラボラッチョが…
パラボラッチョをイベントでお披露目する日。参加者と一緒にパラボラッチョを植える場所まで引っ張ってもらった。その重みをみんなに伝えるためだ。
「植物は人を集める力だけは絶対あるって信じてて、人種も性別も年齢も宗教出すら超えて、わかりあえるもんやと思うんですよね。人の心の中に、植物が植わったな!と分かる瞬間がある。その人の顔がね、目がね、魔法のように変わる。そういうふうに切り替わる瞬間が、嬉しい瞬間…」
パラボラッチョが植えられ、訪れる人はみて、触り、その生命力に驚かされていた…。
イベント最終日、多くの人に触れられたパラボラッチョにはなんと、芽が!みんなが触って愛された植物だから…。
プラントハンター・西畠清順は、植物に宿る生きる力を信じて人に届ける。それが彼の仕事だ…。
番組を観終わって
清順さんが発信しようとしている「植物の持つ力」。改めて共感してしまいました。
植物本来の姿がみえない現代
人間は本来「動物」として植物と接してきた。それがいつしか、「人間」として植物を利用するようになり、現代ではその「植物」だった姿さえみえない。
要するに、植物を極限まで加工し、もとの姿さえ分からなくなってしまっているということ。例えるなら「チョコレート」。よくチョコレートのパッケージに黄色の実が描かれていることがあります。ところが、あれをそのまま使ってチョコレートをつくるのではないと知って、僕は驚愕したものです[*04]。
他にも、綿100%のシャツ、小麦粉や米粉、さらにはヨーグルトの中のアロエまで。しょっちゅう目にしているけれど、加工される前の植物に思いを馳せない。馳せられない。
理由は簡単で、もとの植物と接する機会があまりないから。逆に言えば、ないからこそ、僕は植物の本来の姿を知って素直に驚ける。だから、植物のことをもっと知りたくなるのです。
植物のスイートスポットを知らせてくれる?
僕が清順さんについてワクワクしてしまうのはきっと、いまの僕の何周も「植物本来の姿」を知っているだろうから。それはきっと、番組の中にもあった「生命力」にあたると思う。何周も何周もその植物の魅力を発見してきたからこそ、人を惹きつけるど真ん中の部分を伝えることができる。
まだまだ僕には、ドストライクな植物のスイートスポットを見つけることはできません。けれど、見つけるまでが楽しい。
清順さんのプランをみるひとはそれぞれ、そんな「楽しさ探し」を知らぬ間にしているのかもしれません。釈迦の遺した教えを辿る修行僧のように…。
清順さんの新刊本「教えてくれたのは、植物でした」
そんな清順さん、新刊本が出るようです。
徳間書店
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タイトルからしてスゴイ気になる。番組を観ただけでは物足りない僕としては、この本も買うんだろうなぁ…。というか、ここ最近、清順さんの虜になっています…。
- 葉があると気が活動を続け、養分をとられてしまうから [↩]
- そらみみ植物園には「歯が抜けるほど衝撃を受けた」そう [↩]
- 農園の方は「ニシハタ・スタイル」と呼んでいた。 [↩]
- 参考:チョコレートを食べながら、カカオの実に思いを馳せる | ボタニカログ [↩]