もう時代は「令和」に入ったし、ずっと書きたかったことを母の日前の良い機会だから、ここで昇華させておこうと思います。
それは、僕が経験した「母の日」について。
僕が働いた生花店のハナシ
「物日」とは?
園芸業界は仕事が忙しくなる「物日(ものび)」と呼ばれる時期が、年に数回あります。
代表的なものに、
- 年末
- 春と秋のお彼岸
- お盆
などがあり、これらは切り花を扱う業界などが慌ただしくなります。
なかでも、切り花も鉢花も問わず、最大級に忙しくなるのが5月にやってくる「母の日」なのです。
応募したら即採用!
10年ほど前のこと。
何も知らず、ただただ「植物の仕事がしたい!」と意気込んで、とある生花店の求人に応募しました。
4月になる直前に面接を受け、直後に採用。
自宅と同じ市内にある生花店だったので、通勤もしやすいというのが選んだ基準でした。
ところが、実際の勤務地は市内の生花店のほか、電車で30分ほど行ったところの別店舗など複数店をハシゴ。
はたまた作業場や倉庫など、県内のあらゆる場所を毎日、往復したのです。
花屋なのに往復?と思うかもしれませんが、仕事内容はほぼ、配送。
市場から倉庫にやってきた荷物を各店舗へ配送し、その間にも店のエリア内に住むお客様へ、商品を配達。
さらには、葬儀場での備品回収や清掃を行い、手が空いたら店内での接客や掃除をする。
当時の僕はもう学生ではなかったので、フルタイム扱いで朝の8時ごろから夜の21時ごろまでのシフト勤務でした。
それでも僕は植物の仕事ができるなら…と、希望とは違う勤務形態の疑問に目をつむっていました。
「緑のゆび」を持つ女性店長の店で…
そんな中、はじめから希望していた勤務地の生花店では、「植物の仕事」らしい仕事をすることができました。
そこでは温厚な性格の女性店長が休みなく出勤(←ここ重要)。
店長のいるお店では、ほぼほぼ配達もありません。
忙しいながらも、いろいろと話ができたり、植物のメンテナンスをできたりと楽しくも濃い仕事をこなせました。
ハナシはズレますが、この店長を僕はいまでも尊敬しています。
激務の中でも植物の「動き」を詳細に察知し、少ないロスでしっかりと商品を売りさばく術に長けていたのです。
そんな店長の「緑のゆび」感にしびれることが、最高の楽しみになっていました(笑)。
「母の日」シーズンは朝から晩まで…
ところが、母の日が近づくにつれ、希望していた居住市内の勤務地への出勤は激減。
アルバイトとはいえ、休みなんてありません。
代わりに県内のあちらこちらに商品を配送&配達する日々…。
今のようにスマホもないし、携帯がナビ替わりになるような機能もない。
地図を片手に、花やアレンジメントが大量に積み込まれたワンボックスを一日中運転するのです。
母の日前には、そんな業務が数週間にわたって、朝から晩までギッシリ詰まっている過密なスケジュール。
そのうえ、少しでも配送や配達が遅れれば、家族経営の幹部一族から激しい叱責を受けます。
「渋滞する大通りを通るんじゃなくて、あそこの細い道をスピード出して飛ばせよ!」
「ちゃんと客に電話掛けてから訪問しねえと時間の無駄だろ!?(電話代は従業員持ち)」
「遅くなるんだったらなんで報告しないんだ!」
というので、報告すれば、
「そんなことで電話してこないで!こっちはアンタみたいに暇じゃないの!分かる!?」
と、長々と説教を受ける始末。
身も心もズタボロになりながらも、母の日を終えたとき、それはそれは安堵しました。
無事故で業務をこなせたこと。
そして、店長のいる生花店でまた働けることに…。
決して母の日の労働への達成感はありませんでした。
抱いた違和感と決定的な瞬間
ところが、母の日の後も希望の勤務地へ固定されることはなく、相変わらず県内各地を配送する日々。
で、真夏の閑散期にはなぜか社長の家の庭で草むしり…。
大汗をかきながら作業を終え、クーラーの下でテレビを観ている社長に声をかけると「あそこにまだ残ってるじゃねぇか!ちゃんと取れよ!」とやり直し。
こんな業務、求人広告には載っていなかったけど…?
この頃から強い「違和感」を抱きはじめます。
僕のやりたかった「植物の仕事」ってこんなもの?…と。
そんなある日、某デパートに入居する店舗でいつものように部下を叱責するとある女性幹部が目に入る。
「あの人、また怒ってるよ」
そう思っていた次の瞬間、幹部が部下の女性を平手打ちに…。
店内にいた高齢のご婦人(客)が「手を出しちゃいけないよ」と幹部をいさめる様子をみて、「いくら同族経営とはいえ、あの人が経営陣にいられるような会社は傾き続けるな」と察知したのです。
こうして僕は生花店をクビになる
そして。
ついに僕もそんな女性幹部と大喧嘩。
常時いるわけでもない店内で、商品を入れる袋がどこにあるのか分からない。
お客様を待たせるのはいけないと思い、少し大きめの袋に入れて渡したのです。
それをみた幹部が「なんでその袋を使うの?その袋、いくらかかると思うの?」と…。
口論のあと、別の店舗に戻るとそこにいた男性幹部から、こう告げられたのです。
「電話で聞いたんだけど、お前、オレの妹と喧嘩したんだって?もうお前クビな」
こうして半年の生花店勤務は幕を閉じました。
もうこんな生花店で働く必要はないと清々したのと同時に、あの店長と働けなくなることが辛かったのを今でも覚えています。
変わらない園芸会社は潰れてくれて結構です
若者を使い捨てにした会社の末路
僕が辞めた後も多くの従業員が会社を去っていったそうです。
母の日の業務のために人員を募集し、気に食わない従業員はゴミのように切り捨てる。
そしてまた翌年の春、花や植物の仕事に携われると希望を抱いてやってくる若者たち…。
今のように「売り手市場」の時代ではありません。
リーマンショックのあおりを受けて、職を探す人も多かった。
求人を出せばある程度の人材は集まってきたのでしょう。
しかし、そんな体たらくは長くは続きません。
- 客の目の前で暴力を振るう店が潰れ、
- 新規にスーパーへ入居した店舗も数年後、撤退。
- そしてつい最近、久しぶりに店長に会おうと訪れた店舗も閉店していたのです…。
僕の予感はズバリ的中。
というより、誰が見てもブラックだったし、当然、従業員を使い捨てにする企業にはウワサがたって、求人を出しても集まりません。
経営する側にしても、毎度、同じことを教えるのには時間がかかるし、面倒です。
育てる気もないので、ただただ怒鳴りつけて指示を出し、日々の仕事を回すだけ。
物日に大量の商品を売りさばき、売り上げが立てばそれでいいのです。
意に沿わない従業員がいたら?
そんなものクビにすればいいし、また新規募集を掛ければいいだけなのですから。
園芸は「娯楽産業」。
いまやその店がどういう経営状態なのか、また、店長がどうなったのか分かりません。
間違いなく言えることは、今までと変わらない経営体質であれば、数年と持たなく倒産すると僕は思います。
というより、変わらないのであれば倒産してください。
本来の園芸は楽しいものです。
言うなれば「娯楽産業」。
楽しさへの理解がなければ発展しない産業です。
多くの若者が苦しみながら園芸に携わった挙句に使い捨て。
そんな、供給側が果てしなく苦しいのでは、本末転倒です。
全国の園芸業界の関係者にもいえることです。
心当たりがあるのなら、一刻も早く身を引いてください。
業界の発展を阻害する働き方は、もう無意味です。
心から申し上げます。
やめてください、迷惑です。
少子高齢化は園芸業界をも飲み込む
もしも物日を頼りに、従業員を振り回すのであれば、そんな商戦に乗っかる必要はありません。
消費者のほんとうに欲しいものに目を向けて、他の店とは違う独自性をアピールしたほうがまだマシ。
業界全体で同じようなものを一気に販売し、ただただ消耗した挙句、新規性のない商品群に消費者の足は遠のいていくばかりです。
物日に頼り過ぎない働き方を考えていく必要があると僕は思います。
なぜなら、労働力の再生産ができない経営は確実に先細るから。
日を追うごとに進む、少子高齢化。
2036年には3人に1人が高齢者となる推計です。
従業員への教育や継続的に雇用できないような環境では、自分の首を絞めるだけです。
いまの状態を生産力の低下した現場で継続するのは、到底無理だと思うのは僕だけではないはず。
むろん、墓参りに行こうとか、母の日ギフトを買いに出かけるなど、物日前後にアクションを起こす消費者数も減少し、消費も減るのは目に見えています。
現在、母の日商戦の真っただ中!
母の日を目前にすると、いつも辛かった勤務と楽しかった店長との日々を思い出す…。
あの生花店に感謝できることは、そんな経験があったからこそ、負のバイタリティでいまを動くことができること。
はたまた、バカバカしい業界の働き方に疑問符を投げかけられること…。
いい経験と言われれば、それはそうかもしれません。
いま、母の日商戦、真っ最中。
苦しくて辛い毎日を送っている人がいるのなら、少しずつでも変えていきませんか?
変えることができないのなら、心や身体を壊す前に辞める選択肢もあるのです!
園芸は娯楽です。
楽しく、そして学べる、意味のある園芸のため、明日もまた僕は動きます。