『趣味の園芸』2020年9月号を読んで感じたこと。とうとう表題が「コーデックス」メインになってます。

趣味の園芸が「多肉植物特集」を組む!
と聞きつけ、書店へ駆け込み購入。

「趣味の園芸」2020年9月号を読む

読んで感じたのは3つほどありました。

  • もはや「多肉植物特集」ではない
  • ビカクシダの「栽培法」が充実
  • 藤川さんのハナシが面白過ぎる

以下、ひとつずつ感想を書き出します。

もはや「多肉植物特集」ではない

さて、今回手に取って真っ先に気が付いたのは、もはや表題が「多肉植物特集」がメインではないということ。

過去の「多肉植物特集」はどうなっていたかというと、こんな感じ。

「多肉植物」が前面に押し出されていて、「あっ!今回は多肉の特集ね!」と思わせます。
が、ページを開くと内容はコーデックスやサボテン、はたまたメセンやアロエなどがメインです…。
僕が多肉植物をはじめたころの「多肉植物のラインナップ」とは大きく様変わりしました。
ベンケイソウ科をはじめとするエケベリアやセダム、それからハオルチアなどはほんの少しだけ取り上げられる程度です。
もはや「コーデックス」や、いわゆる「珍奇植物」の類が、号を重ねるごとに増えていったのです。

そして今号。

とうとう「コーデックス・アガベ・サボテン」がでかでかと題されています
小さく「特集多肉植物」と銘打っているものの、です(笑)。
「多肉植物」というジャンル(箱)から飛び出し、いまをときめく人気の植物群がピックアップ。
恐らく「珍奇植物」というカテゴリーを使えないだろう苦肉の策といえば、そうなのかもしれませんが…。

ただしこれ、小さいことながらも大きいことのように思うのです。

取り上げられているのは「コーデックス・アガベ・サボテン」ですが、今号に掲載されている他の植物もみてみると、「ビカクシダ」や「アリ植物」も登場。
これらの植物には、実は共通するところがあるのです。

それは、1鉢を大切にするという栽培法

往々にして「多肉植物」のジャンルもそのような栽培法が盛んなのですが、多肉植物のなかでも「長く、個性的に」育てられることができる植物がやはり人気
以前もこのブログに書きましたが、植物の「買われ方」が変わってきています。

業界が[花を飾って終わり]というセールスポイントを保護し、尊重してきたことで、消費者の意識が遠のいているから
このブログにも何度か書いていますが、いまや「植物を飾るために買う」という動機がすべてではありません。
商品が多様化しているのではなく、価値観が多様化しているのです。
能動的に植物を買おうとする人たちの価値観は、「飾る」よりも「育てる」こと、つまり「体験」という方向に価値観の重きが移っているのです。
だから植物が好きな人はつい、育てられる植物を贈ってしまう。
いっぽうで、植物を育てることに関心のない人は贈られた植物を苦痛に思ってしまう。
価値観のパラドックスが起こっている。

今年は「母の月」になりました!…ということを考えてみる。 | ボタニカログ

そのうえで消費者は絶えずコストパフォーマンスを意識しています。

「観賞期間が長い」というのは、花の咲く期間が長いということもさることながら、何年にもわたってその植物の生長をたのしめるかどうか

つまり、生活空間の身近にあっても苦にならない植物のことを差します。

長く観賞に耐えることができる(耐用年数が長い)植物であれば、費用対効果が高い
それは結果として「より安い金額で手に入るもの」に部類されるのです。
10,000円の植物を5年楽しんだら、年換算で2,000円。
3,000円で買ったものが数カ月で枯れてしまったら、5年楽しめる植物よりも費用対効果は悪い
よって、1年も経たずに枯れてしまうもの、単に装飾として用いられるようなコストパフォーマンスが悪い印象を受ける植物は、忌避される傾向にあります。

植物を買う前に考える3つの「余裕」。余裕がないから植物が売れない。 | ボタニカログ

つまり、大量に植物を買って庭などの広い空間を装飾したり、切り花で消費するということよりも、

  • 省スペース
  • 省エネルギー(省労力)
  • 省コスト

の3つが重要なのです。
もっと簡単に言いましょう。

消費者マインドは「量」よりも「質」にシフトしています。

いや、もうその流れが主流になっていると僕は思います。
その理由は以下のリンク先に書いています。
お時間のある時にぜひ…。

ということで、「量」より「質」の買われ方をするジャンルである「多肉植物」界の、特にその傾向の強い植物をピックアップしてきた「趣味の園芸」
実際、園芸店をめぐれば「多肉植物コーナー」にこれらの植物が跋扈している光景は少なくありません。
また、コロナ禍のなかでもじっくりと「植物を育てる」ことの楽しみが多くの人に理解されようとしています。
シニア層の読者も多い媒体にあって、それらの植物たちをここで紹介するのは、特に間違ったことでもないと僕は感じます。

ビカクシダの「栽培法」が充実

さらに今号では「ビカクシダ」の特集もなされています。
実は2019年9月号の「多肉植物」特集号にもビカクシダ特集が組まれていました。

改めて読み比べると、

2019年9月号

  • 8ページ
  • 登場種類は基本的な18種類
  • どちらかといえば「肥大化(大きく育てる)」ことに重きが置かれている

2020年9月号

  • 14ページ
  • 登場種類は普及種やレアものなど10種類
  • 失敗を防ぐための基本的な栽培法

どちらの特集が良いかという判断はできませんが、できれば併せて読みたい!…と僕は感じます。
なぜなら、未だビカクシダのみを扱う書籍、もっといえばシダ植物を栽培するための実用書が皆無だからです。
なのに「コーデックス」と同様に、ビカクシダはあらゆる園芸店で普通に見られる…。
育て方なんて、インターネットで検索すれば良いじゃん!という意見もあるとは思いますが、やはり紙で読み込んだときの「没入感」や「覚え様」って違うんですよ。

今号(2020年9月号)は、栽培の基本的な部分が網羅されているので、「ビカクシダ」について気になっている方は購読をおススメ。
「飾って楽しむ」よりも「育てて楽しむ」という、むしろ当たり前なことがしっかりと掲載されていると読んで感じました。

藤川さんのハナシが面白過ぎる

最後に、僕がいちばん興奮したのはこのコーナー。
「まだまだある育てて楽しいコーデックス的植物」です。

そもそも「コーデックス」って何ですか?
…という質問にあなたは答えられますか?
教科書的に答えるとするのなら「根や茎が肥大化した植物群のこと」なのだと思いますが、じゃあ「根や茎が肥大化した植物」はぜんぶコーデックスなんですか?と言われれば返答に窮する。
で、今号はそんな「コーデックス」的に楽しめる植物をスピーシーズナーサリーの藤川史雄さんが紹介しているのです。

ページをめくれば、いきなり藤川さんの結論が出てきます。

そこで今回は、比較的成長が早く、自分で育ててコーデックス化させる楽しみのある植物を中心に、コーデックスとして出回っているものではなくとも、「コーデックス的」に楽しめるという切り口で紹介していきます。「これはコーデックス」「これはコーデックスではない」というジャンルの境界を取り払うと、さらに広くて深い、園芸の世界が広がるはずです。

引用元:NHKテキスト趣味の園芸 2020年 09 月号

と…。

つまり、多肉植物のいちカテゴリーに属していた「コーデックス」も、より広い視点で「コーデックス的」に植物を見直してみれば、もっと面白い発見があるかもよ、ということ。
そのうえで、今号をひもといてみる。
なるほど、世間一般からコーデックスと認識されているような、されていないような植物たちがピックアップされているのです。

さらにワクワクするのが、紙面では載せきれない情報をウェブ上で読むことができる、「こぼれ話」。
前編では、コーデックスの「歴史」に触れています。

実に興味深いです。
コーデックスの区分けなど、難しく考えなくて良いんですね!
そして後編。

これも、読んでみると実に面白い内容です。
太古の「太る」こと、いわば豊穣への象徴がコーデックス愛好に繋がる…。
考えたこともありませんでしたが、言われてみればそうかもしれません(笑)。
ぜひ、一読を。

まとめ

植物は育てるから面白い

くどいようですが、今号に通底しているのは一貫して植物を「育てる」ということ。
…のように思いました。

当たり前なハナシかもしえませんが、植物は育てるからこそ面白いのです。
育てるからこそ、成長過程での観賞が成り立ち、そこに自分なりの発見や価値観を求めることができる
飾ることや、使うということも重要かもしれませんが、本来の園芸って、そういうものではないと僕は思うのです。
はじまりはいつでも「育てる」こと
そんな当たり前なことが大切なのです。

このコロナ禍で小売店などの「育てる植物」関連が少し伸びた…という話も聞きます。
コロナの影響で家に居る時間が長くなり、必然的に外に出る機会も減る。
そこで「外界」の植物を住空間という「内なる空間」に持ち込むことで、外とのつながりを図ろうとする人が増えた。
野菜を育てるのが面白うそうだから、多肉植物をはじめたかったから、サボテンをインテリアに組み込みたいから…。
これらの行為の意味は、植物を育てることで、植物との「時間」を共有することに他なりません
生活のなかに植物を共にするという場面が生まれるのです。
その行為で副次的に得られるのが、植物を育て、植物の身近にある生活のなかでひとは知らず知らずのうちに、自然的な「時間」の認識
それと同時に、自分でも植物を育てることができるという「自己肯定感」も養えるのです。

だから「育てる」ことが基本。
けれど、現在の園芸シーンでは「育てる」ことがないがしろにされている一面があるのも事実。
このハナシをするとどんどんヨコに逸れてしまうので、またの機会に。

書籍が増えた今だからこそ…

以前に比べれば、「珍奇植物」や「コーデックス」関連の書籍も増えました。
ということは、趣味の園芸もきっと、「新しい切り口」を探るのに苦労しているのだと思うのです(笑)。
さらに、シニア層をメインターゲットにし、初心者から幅広い層に園芸という趣味をガイドするという意味。
だからこそ、深く読み込んでその真意(言いたいこと)を探るのも面白い…と思うのですが。

あっ!
いやいや、素直に読んでも面白いですよ!
無骨なのに強健で育てやすい「アガベ」の特集や蟻と共生する「アリ植物」の紹介もオススメです。

この記事を書いた人

mokutaro

植物好きが高じ鉢物業界に飛び込んだアラサー男子。群馬県に移住し、毎日、食べ(られ)ない嗜好性の強い植物とまみれています。 園芸を考えるブログ「ボタニカログ」を運営中。