「地衣類―藻類と共生した菌類たち―」展へ。身近な地衣類の低認知度を目の当たり!?

クリスマスローズの世界展はちょっと消化不良だったので、兎にも角にも楽しもう!

そう心に誓い、次にやってきたのは上野の国立科学博物館。ここで開催中の地衣類―藻類と共生した菌類たち―」を観に来たのです。

「地衣類」展を観に国立科学博物館へ!

「ち~るい」って何だろう?

このブログでも「地衣類」について何度か記事を書いていますが、地衣類は植物ではありません。コケでもありません。けれど、植物のように、コケのように振る舞う地衣類という存在がどうも気になる…。
気がつけば、赤ちゃんパンダ「シャンシャン」に沸く上野駅を降り、観光客で賑わう上野の街をブラブラ彷徨う(笑)。

で、久しぶりの国立科学博物館へ到着。「ヒョウタン」でできた「ペ〇スケース」なんかを観に来たのは2015年とは。早いものです…。

博物館内外ではインカ少女のミイラがみられると大々的に広告が打たれますが、なぜだか地衣類展の告知は見当たらず…。それもそのはず、展示会場はこじんまりとした一室で行われていたのです。
言うなれば、なんともマイナーな展示かもしれません。

一瞬、そんな空間の雰囲気に戸惑いましたが、心配は不要でした。めちゃくちゃ面白かったです!

まず、この地球上に菌類は10万種存在しているといいます。
そのうち99%が「子嚢菌門」、1%が「担子菌門」に当たります。そして子嚢菌門の既知種のうち約4割が「地衣類」とされています…という趣旨の説明が。

よく分かりません。

でも、よ~く説明文を読むと衝撃を喰らいます。それは「地衣類」はコケではなく、菌類であり、しかも藻類と共生して暮らしている、なんともハイブリッドで高性能な生物だった!ということ。

菌類と藻類が共生することを「地衣化」と呼ぶのですが、菌類と藻類が共生することでうまれる大きなメリットはコレ

菌類が藻類に必要な無機物や水分を確保し、藻類が光合成をして菌類に炭水化物を供給すること…。

その結果、永続的な共生関係が生まれるのです。

案外、身近な地衣類

「ち~るい」「チールイ」などと、耳に聞きなれない単語が登場しますが、案外身近に生えています
我が職場である農場では夏の降雨後、地面に濃い緑色をした地衣類がびっしりと生え、ダイナミックに足を滑らせてくれます(笑)。
乾燥時にはきゅっ!と縮こまっているのですが、水分を吸うと急激に弾力をもって膨らみ、気味の悪い物体へと変貌するのです…。
登山やハイキングの好きな方であれば「サルオガセ」ときいて「あ~!あれが地衣類なの」と反応されたこともあります。

地衣類の多様な利用

展示ではそんな地衣類のライフサイクルや、どのようにして地衣類が利用されているのかなど、興味深い内容がチラホラ。
とくに面白かったのが「地衣染め」。

「地衣類は最も有用で最も知られていない染料」とあるように、「地衣染め」とは、絹や羊毛など動物繊維を染める技法です。12~14世紀にはヨーロッパで地衣類を使った染色が産業として定着しました。
会場には地衣類を使った染料で染められたロウソクが展示され、黄色いその色をつくるのに使った地衣類の名はなんと「ロウソクゴケ」(と「コウロコダイダイゴケ」)。そのまんま(笑)。

地衣類の利用としては、

Q2. 地衣類を使った製品がありますか?
A2.

  • リトマス試験紙はリトマスゴケという名前の地衣類の化学成分を利用して作られます。
  • オークモスとよばれる樹枝状地衣類は、香水の材料として利用されます。
  • ウールの植物染色としても利用されます。
  • 鉄道模型などのジオラマ用の樹木として利用されます。

引用元: 国立科学博物館-地衣類の探究

などがあるそうです。
比較的「リトマス試験紙」は地衣類を使っている(最近は人工的に合成)というのは有名です。
ほか、ジオラマ用の樹木に使われているというのも「あ~あれかぁ!」と、ハナシのネタには大いになると思うのですが(笑)。

また、地衣類を使った「リース」なども製作されるそう。

確かにそれっぽいフワフワ感の物体を、クリスマスになると見かけるような気もしたり。

地衣類には食べられるものもある

次に興味深いのは、地衣類が食べられるということ。
職場の上司が「長野県の高級食材だべ!」と言っていた「岩茸」もディスプレイ

中国産と思しき食材も並べられ、どんな味がするのか、どんな食感がするのか、こわいもの見たさで興味深いところ。
キノコにも毒があるものとそうでないものがあるように、地衣類にも毒を持つものも存在します。なので、勝手気ままに口にできるものではありません。
ただ、長野県の「岩茸」は、機会があれば食べてみたい。

地衣類でカモフラージュ!?

そういえば、アクション映画でジャングルの景色に馴染むよう、カモフラージュするときにくっつけるモジャモジャ
あれはもしかして地衣類?それともチランジアのウスネオイデスとか…?

これは人工的なモジャモジャっぽい

ついついジャングルの戦闘シーンでアレが出てくるたびに、一体アレはなんだろうと画面を注視してしまいます。なので基本、ジャングルでのドンパチは頭に入りません(笑)。

自然界でも地衣類はカモフラージュ素材として有用のようで、「エナガ」は巣をつくるときに好んで地衣類を使うそうです。
そして会場にはこんなコーナーも。

地衣類の模様を背景に、あらゆる模様(おもに蛾)のマントを使って隠れてみよう!というもの。
三十路のおっさんも挑戦してみたかったのですが、ここは我慢(笑)。
こういったアトラクションがあれば、子供の好奇心の向くままに、いつの間にか「地衣類はこんなやつだっけ?」と分かるので、楽しみながら自然を体験できるはず。
もちろん、他の展示物をみても、老若男女が地衣類についての関心を深めることができるのではないでしょうか。

地衣類って認知度が低い?

ところが。
この会場は常設展の料金を支払えば誰でも入れるがゆえに、印象的な親子を見かけました

母親

〇〇(子供の名前)ちゃ~ん!ほら、ここで何かやってるよ!

男の子

なにやってるの?

(会場を一望する母親)

母親

あっ、コケの展示だって!

男の子

コケ??

母親

…むこうの恐竜さん観に行こうね~

男の子

みる~!

結局、入り口で母親が会場の様子を一望しただけで、一歩も中へ入りませんでした
そもそも、コケじゃないし!

でも、会場入り口で母親が逡巡した気持ち、なんとなくわかる気がするのです…!
地衣類の研究をしている柏谷博之さんの書物にはこうあります。

山で地衣類を観察していると、日本でも外国でも出会った人々から「何をしているのですか?」と聞かれることがよくある。”地衣類”を調べているのですよと答えると、日本人からは”ああコケね!”という返事が返ってくる。ところが外国人の場合は”ああ地衣類ですか!”という返事になることが多い。この違いが何に起因するかはずっと気になっている。

そのいちばんの理由は、最近の日本の学校教育で地衣類が取り上げられることがほとんどないからではないかと思っている。

(中略)

これでは、一般の人々に地衣類とコケ類の区別がつかなくて当然だろう。

引用:地衣類のふしぎ コケでないコケとはどういうこと?道ばたで見かけるあの“植物”の正体とは? (サイエンス・アイ新書)

僕も地衣類の存在をよく知りませんでした。コケとは何が違うんだろう?みたいに。
ところが、地衣類がとても身近にあることに知ってから、ちょっとだけ自然の摂理が面白くみえてきました
逆に言えば知らなければその分、つまらないままです。
ずべてを学校教育に責任を擦り付けるのは無意味ですが、もう少し地衣類についての理解が進めば、自然の不思議さが僕らにぐっと寄り添ってくるはず

地衣類とコケの区別を曖昧に教えられてきた親世代に責任はないのかもしれません。
けれど、こんなに楽しい地衣類の世界に踏み入るチャンスをス~っと逃してしまうのはいささか勿体なく…。
ちょっとしたきっかけが呼び水となって、それから怒涛の如く地衣類が気になり出してしまう。
虫・花・鳥…。何かを好きになることは、何がトリガーになるのか分かりません。
なんだか、会場に一歩も足を踏み入れない、あの親子の存在があらゆる意味を象徴していると感じ、頭から離れないでいるのでしょう。

「南方熊楠」の展示も一緒に…

こんな感じで、いろいろと考えることのできる「地衣類―藻類と共生した菌類たち―」の展示。
地衣類と浅く広く触れ合うことで、何かしらの発見ができるはず
2018年3月4日まで開催中です。
地衣類の研究もしていた南方熊楠の展示も同時開催しています。

どちらも知的好奇心をブルブルと湧きたたせる内容です。

是非、足を運んでみてはいかがでしょうか。

この記事を書いた人

mokutaro

植物好きが高じ鉢物業界に飛び込んだアラサー男子。群馬県に移住し、毎日、食べ(られ)ない嗜好性の強い植物とまみれています。 園芸を考えるブログ「ボタニカログ」を運営中。