ウチワサボテンが食糧危機を救う!?という報道をもう少し紐解いてみる

2017年12月。こんな記事が流れてきました。

サボテンが食糧危機を救う!?

ウチワサボテンには人命を救う力がある?

 FAOと非営利団体「国際乾燥地農業研究センター(ICARDA)」は、ウチワサボテンには人命を救う力があると考えており、2015年にマダガスカルを襲った干ばつでは「サボテンが現地の住民と家畜にとって決定的な食料・飼料・水分の供給源となったことが確認された」と強調している。

サボテンは古代アステカ(Aztec)文明では聖なる植物とみなされ、現代でもメキシコの人々は食用、飲用から薬用、シャンプーにまで幅広く活用している。

とげの生えた平たい形状が特徴的で、そこから突き出して生える赤い実がまるで指のようにも見えるウチワサボテンは、メキシコでは農園で大規模栽培され、一人当たりの消費量は年間6.4キロにもなる。

また、地中海のシチリア(Sicily)島でもサボテンを食べるほか、ブラジルには総面積50万ヘクタールを超える飼料用サボテンのプランテーションもある。北アフリカやエチオピアでも植生が確認されている。

消費価値に加え「乾燥した気候でも生育できるため、ウチワサボテンは食料安全保障の面で重要な存在となっている」とFAOは指摘。「果肉に水分を蓄えたサボテンは、井戸となる植物だ。1ヘクタール当たり最大180トンもの水を供給できる。成牛5頭が生き永らえるのに十分な量で、典型的な放牧地の生産力が著しく向上する」と説明している。

引用元: ウチワサボテンが食料危機の救世主か、国連食糧農業機関が見解  写真3枚 国際ニュース:AFPBB News

干ばつを襲う国々でサボテンを栽培・活用すれば、厄介払いされていたサボテンが食糧危機を救うかもしれない…。という記事。原文はこちら

アフリカの植物写真に写りこむ南米の植物

マダガスカルの植物写真集をよくみてみると、ウチワサボテンが当たり前のように登場します。けれどそもそも、ウチワサボテンは南米の植物。なぜかマダガスカルやアフリカ大陸の多肉植物と一緒にファインダーに収まり、あたかもそこにいたかのように振る舞う…。

それもそのはず。ウチワサボテンの繁殖能力は高く、オーストラリアや地中海地域などでは生態系に害を及ぼす外来植物として問題視されているのです。

高温な気温に耐え、さらには水分を含んで干ばつに耐える。中には雪を被っても生きながらえる種類もあるそうです。過酷な環境で生きてきたからこそ、少しでも生きるのに容易な環境であれば大繁殖してしまう…ということなのでしょう。

人も牛も食べる、食べられるサボテン

FAOで参考植物として挙がっているのは「Opuntia ficus-indica」というメキシコ産のサボテン。日本ではウチワサボテンとして認識されています。南米では主にに果実(Cactus pear)を食用とするために栽培されています。

photo credit: ralpe 20150722_172218 via photopin (license)

その他、メキシコ料理などでは茎[*01]を野菜とした「ノパール(ノパル)」の名前でも消費されています。

photo credit: lightcomposer via photopin (license)

この記事では、サボテンを食糧とするのは「人」だけでなく、家畜となる「牛」も対象とされています。そうなると、牛が牧草をそのまま食べるように自らサボテンを喰いつくのか、という疑問が…。

当たり前ですが、トゲのあるサボテンを食べれば、草食動物の牛でさえケガをします。もっともメキシコでは、このウチワサボテンのトゲを嫌う牛の習性を用いて、牧場のフェンスとして活用することもあるのです。

ならばどうやって飼料にするのでしょう。

推奨されているのはトゲの少ない品種を栽培すること[*02]。または若干の手間はかかるものの、トゲを取り除く機械も開発されているとのこと。ノパルを飼料とすることはそれほど非現実的なものではないようです。

ノパルは家畜の飼料としても使われています。乾燥や高温に強く、他の作物が育たないような環境でも栽培できるためです。メキシコ以外でも、チュニジア、モロッコ、ブラジルでは飼料用ノパルの大規模生産が行われています。ノパルをトウモロコシなどの高カロリー性の飼料と混ぜて与えると家畜の飼料摂取量が増え、生育が促進されるという研究報告も発表されています。

引用元: 食べられるサボテン 堀部研究室(園芸学研究室) 中部大学|食用 サボテン 春日井 食べる

日本でもサボテンを食べられる

国内では愛知県の「春日井ノパル」が有名

さて。僕がこのニュースでいちばん疑問に思ったのは、この発表がなされてから、ニュース番組の取材が伊豆のシャボテン動物公園にはいったこと。

実は日本国内でもノパルを有効に利用しようとしている地域があります。その場所は、愛知県春日井市。古くからサボテン栽培の街としても有名で、食べられるサボテン「春日井ノパル」を使った料理が様々なお店で開発されているのです…。

春日井市は種から観賞用のサボテンを育てる実生栽培で知られており、出荷量全国1位の実績も持つサボテン産地です。しかし現在は農家の高齢化と後継者不足が深刻な問題となっており、存続が危ぶまれる状況に陥っています。このような状況を打破するため、春日井商工会議所が中心となりサボテンを活用した地域活性化を目指す取り組み「春日井サボテンプロジェクト」が行われています。具体的な取り組みとしては、ノパルを使った商品開発、料理教室の開催、マスコット(ゆるきゃら)の開発、LINEスタンプの作成など多様な活動が実施されています。また毎年春には市内でサボテンをテーマにしたイベントが開催され、そこではノパルを使ったラーメンやビール、コロッケなどを食べることができます。

引用元: サボテンのまち(愛知県春日井市) 堀部研究室(園芸学研究室) 中部大学|春日井 サボテン

僕も春日井へ、サボテングルメを食べに行ったことがあります。

ニュース番組では「サボテンの食べ方」を例示するために東京のメキシコ料理屋さんが紹介されましたが、どこか違和感。取材の効率を考えて近場のお店を選んだのでしょうか…(^-^;。どちらにしろ、不可分なく報道されたとは思いますが、もう少し幅広く情報を発信してほしいものです。

また、ノパルは栄養豊富な食材としても注目され始めています。全国区での利用が広まり、もっと野菜としての地位を確立してほしいとも思います[*03]。いろいろと書きましたが、まずはどこかでサボテン料理を見かけたらトライしてみてください。現在、あらゆる植物関連の施設に、春日井産のサボテンキャンディーなんかもたまに見ますし…。自身の味覚と感性で「サボテンを口に」してみてはいかがでしょうか。

[aside type=”normal”]アイキャッチ画像
photo credit: mamd_ Tlayacapan, Morelos via photopin (license)[/aside]

  1. パッドと言います。葉のようにみえますが厳密には茎なのです []
  2. 南米ではノパルを利用する際はトゲを焼いてから使うこともあります []
  3. もちろん、サボテンを生産する農家さんも増えてほしいもの []

この記事を書いた人

mokutaro

植物好きが高じ鉢物業界に飛び込んだアラサー男子。群馬県に移住し、毎日、食べ(られ)ない嗜好性の強い植物とまみれています。 園芸を考えるブログ「ボタニカログ」を運営中。