「珍しい観葉植物(コーデックス)」を盗んで販売。珍奇植物(ビザールプランツ)ブームの裏にあるものとは?

2018年1月24日。こんなニュースが入ってきました。

植物の窃盗事件に関して思うこと

「珍しい観葉植物」を盗む!?

 兵庫県警川西署は24日、沖縄県内の農園で観葉植物を盗んだとして、福岡県●●町の自営業の男(44)を逮捕した。

 逮捕容疑は2017年1月25日から同26日までの間に、沖縄県八重瀬町の農園のビニールハウスから、農業を営む男性(37)が所有する観葉植物25点(約96万円相当)を盗んだ疑い。

 同署が、兵庫県川西市内で昨年発生した植物の窃盗事件を捜査する中で、この男が浮上した。沖縄県の農園にあった珍しい観葉植物を、男が販売していたことなどが逮捕の決め手になったという。

 男は「沖縄の農園に行ったが、盗んでいない」と容疑を否認しているという。

引用:珍しい植物販売で窃盗ばれる 96万円相当、容疑で福岡の男逮捕 – 神戸新聞

※ 所在地は筆者が伏せています

このニュースが入ってきた当初、容疑者の名前も分からないし、どんな植物を盗んだのかも分かりませんでした。ただし「珍しい観葉植物」が「盗まれる」=高く取引される可能性のある植物→ハオルシアかコーデックスあたり?と踏んでいました。

どんな植物が盗まれたのか?

翌日はこのニュースの詳細が報じられ、容疑者の所在地や名前も明らかとなります。その情報をもとにインターネットで検索してみると、やはりコーデックスをメインとした商品を並べる、店内と思しき画像が…。

その後、このニュースに関連する情報は発表されていませんが、盗まれたのはビザールプランツ(珍奇植物)の流行により注目を浴びている植物群でしょう

「珍奇植物・ビザールプランツ(Bizarre Plants)」って何だろう。ほんとうの意味と、僕らがこれからするべきこと。

2015.12.05

いつかコーデックス界隈で窃盗関連のニュースが出てくるだろうとは思っていましたが、実際に起こると複雑な気持ちです。以前、このブログで植物の窃盗に関して、

今後、ハオルシアだけでなく、ラン・多肉植物を含め、あらゆる植物も注意が必要になると僕は思います。ネット上には多くの植物情報が溢れ、一昔前には見向きもされなかった植物も、誰彼かまわず、一瞬にしてその価値を判断することができます

引用元: 「日本ハオルシア協会」さんのブログに書いてある注意喚起は、誰もが読んでおくべき。もはやハオルシアだけの問題ではない…。 | ボタニカログ

と書きました。どんな植物も一瞬でその価値が分かり、その所在も簡単に類推できてしまう時代です。プロ・アマを問わず、今後も注意が必要です。

「日本ハオルシア協会」さんのブログに書いてある注意喚起は、誰もが読んでおくべき。もはやハオルシアだけの問題ではない…。

2015.12.06

まず考えるべきこと

まず、このニュースで考えるべきこと。それは植物の窃盗が起きたとすれば当然、盗まれた被害者がいるということ。その被害者は趣味として植物を栽培している一般人かもしれないし、植物栽培を生業とするプロかもしれません(*01)

誰であっても植物を育てることは一朝一夕にはいかないし、半ば人生を賭して栽培している人もいる。ある人がSNS上に、

植物を売るということは「時間を売る」ことに等しい

と書いていました。これは至言であり、プロでなくとも一般の趣味家でも同じく言えることです。植物を盗まれるという事件は、かけがえのない時間を一瞬にして奪われてしまうことと同意なのです。

公園に植えたチューリップには植えた人の時間と手間があります。

温室にある植物は、温室を建てた費用と手間、そしてその植物がそこまで育つまでに費やした水遣りや肥料遣りなどの時間など、書ききれないほどの苦労があります。だからこそ、誰かが大切に栽培していた植物を盗む行為は絶対に許されることではありません。

屋号が「植物を愛する」!?

それを踏まえて今回の事件。

植物を育てるということへの「愛」がなければ、植物屋を名乗るな

と言いたい。もっとも容疑者本人は容疑を否認しているとのことですが、植物を盗んでもなんとも思わないような人間が植物を販売してほしくはありません

容疑者も植物が好きだったのかもしれません。けれども、「好き」だった植物よりもビジネスの切り盛りや、「カネ」に目が眩んでしまったのでしょうか。愛好するためのかけがえのない存在だった植物も、ただの商品に成り下がってしまったのでしょうか。

もし植物を盗んだことが事実であるのなら、容疑者の営んでいた「植物を愛する」という意の馬鹿げた屋号を変えてほしい。そこに植物への愛なんてどこにもないから。

「珍奇植物(ビザールプランツ)」の裏にあるもの

珍奇植物とワシントン条約

実は珍奇植物とされているもののなかにはCITES(ワシントン条約)の取り決めで採取や輸入が制限されているものがあります

CITESには、付属書という物があり、そこに保護対象となる動植物がリストされています。I類とII類という分類があり、I類の方が厳しく基本的に国家間の取引は無理で、II類は書類を取れば商業取引OKとなっています。
また、I類には輸入許可が必要ですが、II類には輸入許可は不要です。
よく目にするので、そんな品種も?と思いがちですが、アロエ全種、パキポディウム全種、ユーフォルビア全種、アボニア・アナカンプセロス全種、サボテン全種はCITESの規制植物です。他にもソテツやオニソテツ(エンセファラルトス)なども規制対象です。

引用元: 今さら聞けないワシントン条約・CITESってなーに!?

ブームが起こる前までは一部のマニアやナーセリーが蒐集・栽培していたので、国内での株数は豊富にあるわけではありません。よって、すでに輸入されている植物のパイをブームの中で取り合うわけで、当然、価格も上昇するのです。また、新たに輸入したとしても、根が切られて検閲を通ってきた植物です。しっかりと根が張るかどうかも分かりません

こうした様々な要因からコーデックスをはじめとする珍奇植物の価格は上昇し、つい最近も「趣味の園芸」で取り上げられましたが、オペルクリカリア・パキプス(*02)などはウン十万円もの高値で取引されたりするのです…。

そう考えると容疑者は資金の少なさから在庫のボリュームアップに苦慮していたのではないでしょうか。人気の高い植物は仕入れが大変になるのは、どんな園芸店・バイヤーも同じです。その上、昨今はSNSでの情報発信が主流となりつつある。たったひとつでも人気の品が入荷ができれば一気に話題となり、売り上げに影響するのも理解できます。

でもだからといって…。

僕ら園芸を趣味とする者はできれば小さくても、国内の実生苗を育てる方があらゆる面で有用。栽培の失敗によるリスクは小さいし、何より子株からともに過ごせば大きな愛着が湧きます。

コーデックスは生長が遅い

また、広く「多肉植物」と呼ばれる植物は生長が非常にゆっくりとしたものが多いです。近年流行している多肉植物の一部である「コーデックス」は、原生地で何十年もの間、ゆっくりと生長し、やがて50㎝ほどの大きさになってやっと「大株」だとされたりするのです。

そのため、大きな植物を愛好したいという場合、現地の植物を採取して輸入する方法が手っ取り早く、ゆえに乱獲などの問題も多発しています。

上記のワシントン条約の問題も含め、大きな植物は価格も張り、誰もが簡単に手に入るものではありません。しかし、人気もある品種です。もしもこのブームの中で入手ができ、それなりの高値で売ることができるのなら…。

容疑者が盗んだものは、植物だけでなく、「時間」という概念も含有していること。それからその「時間」の対価も植物の価格に含まれていること。これらを僕らは今一度、認識したいところです。

薄暗い売り場で長時間ディスプレイ

次いで、この珍奇植物ブームが終焉し、価格が下がったらブームに乗って開業した彼らはどうするのでしょうか?

きっと売れ残った植物は「不良在庫」であり、常にメンテナンスしなければ価値の下がる厄介者。当然、ネットオークションに放出するか、処分するはずです。そしてまた次の流行へと移るのだろうと。

さらに言えば、やっと適切な栽培のできる人のところへ植物がまわってきたとき「業者のメンテナンス方法が最悪で絶体絶命」なんて状態になっているかもしれません。そりゃあ、薄暗い店内で何週間もディスプレイされれば、どんな植物だって弱ります。ビルなどの商業施設が強引に植物販売店に変わっているのを近頃よく見かけますが、そのたびに「商品としての植物」の本質とは何だろうと感じます。

植物は消費者に渡ってからが本番。消費者が手にしてから絶命への道を一直線…なんてことも未だに多いのが現実です。

植物との関わり方が変わり始めている

「ファッション性」×「植物」による流行は否定しません。むしろ不況の続く園芸業界を盛り上げている希望の光でもあり歓迎すべきです。ところが、流行の拡大によってこのような事件が起こるのは悲しいこと。珍奇植物を取り扱う業界全体が白い目で見られてしまいます。

とくにコーデックス類は、成長速度が極めて遅く、それこそ「植物と暮らす」「植物と生きる」など、人生を賭して栽培しようという名目でメディアに取り上げられることが多いです。だからこそ遠大なる時間が経過した輸入の大株が高値で取引され、国内でも実生が大量に生産されはじめているのです。

いわば海外産の植物を使った盆栽というべきでしょうか。

ある意味で植物とのかかわり方が変わり始めたターニングポイントであり、僕ら植物を趣味とする人間は注目すべき点でもあります。それゆえに「ともに時間を過ごした植物」は、その存在自体が個人にとって極めて重要なものとなりつつある

僕も高校生時代から育てているカネノナルキやゴムノキがありますが、やはり特別な存在です。そんな植物を大切に愛でていく…というのが園芸趣の醍醐味です。

それがまさか盗まれたものだとしたら…?。どんな植物であれ、盗んだ植物を購入してしまったひとの「植物愛」を傷つけてしまった罪は大きい…

追記:2018年2月6日

「儲けるために盗んだのは情けない」

2018年2月5日、この事件について詳細なニュースが報道されました。盗まれたのはやはりコーデックスでした。

被害にあった男性は、

被害は、販売価格で合わせて150万円相当に上りました。
男性は、「たくさんの植物が置いてある棚から高くて貴重なコーデックスばかりが盗まれていた。コーデックスは、最近、価格が上がっていて、知り合いの業者からも盗まれたと聞いたことがある」と話していました。
そのうえで、「みんな植物が好きで、一生懸命育てながら苦労して商売している。自分で育てもしないで他人から盗んでもうけようという人がいるのはとても情けない」と話していました。

引用元: 珍しい植物盗んだ疑い 業者逮捕|NHK 関西のニュース

と、時間を掛けて育てなければならないものを、簡単に儲けようとする行為に半ば呆れているといったところでしょうか…。

盗難の被害が相次いでいる

次いでニュース記事には、

【珍しいものは高値に】。
国内の愛好家などで作る国際多肉植物協会によりますと「コーデックス」は、「珍奇植物」とも呼ばれ、サボテンと同じ多肉植物の一種ですが、太い根や幹が特徴です。
ワシントン条約で国際取り引きが制限されている品種もあるため希少性が高く、扱うのは、主に専門業者で、珍しい形に育ったものは、愛好家の間で高値で売買されるということです。
コーデックスなどの高価な植物の取り引きに詳しい販売業者の赤松佳奈さんは、「コーデックスは2年ほど前からブームで、大きくて珍しいものだとおよそ150万円の値がつくこともある。値段が高いものは、株の個体数が少なかったり、原産国の政情が不安定で買い付けに行けなかったりして手に入れづらいものが多い」と話しています。
ブームに伴い、盗難の被害も増えているということで、「多肉植物では、おととしから去年にかけてハオルチアの盗難が相次いだが、最近、コーデックスにも広がっていると聞いている。売買目的のほか、珍しいものを集めるため盗んでいるのではないか」と話していました。

引用元: 珍しい植物盗んだ疑い 業者逮捕|NHK 関西のニュース

と、この投稿よりも事件の背景が簡潔に、しかも詳細に書かれています。

このニュース。よく読むと、「売買目的」のほか「コレクション」のために盗む場合も考えられるそう。今後も盗難被害には注意が必要です。また、ハオルシアやコーデックス以外の植物にも被害が及ぶ可能性があります。どんな植物が盗まれてもおかしくはありません。なぜなら、容易にその価値をいつでもどこでも誰もが判断することができるからです。プロもアマも、植物を栽培している方は、より一層、警戒するべきです。

この記事の脚注

  1. 今回のニュースでは農園とされているので、恐らく植物を生産販売する農家が標的になったのではないでしょうか []
  2. CITESⅡ類 []

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