2017年1月31日。TBS系列で放送された『マツコの知らない世界』。テーマは「100均DIYの世界」という内容だったのですが、放送直後、ネットの植物界隈が一時、騒然となりました。
未だに流布する「エアプランツは水やり不要論」とは?
なんでも放送中に、プレゼンターの方が「エアプランツは水が要りません」と発言したみたいなのです。後日、僕もその放送を確認しましたが、確かにちらりと、気づかない人には気づかれない程度に水遣り不要のニュアンスが語られていました。
放送されたやりとり
そのときのやりとりはこんな感じ。
(インテリアバルブボトルの中に入ったエアプランツを指さし)これは?
これはあの、テラリウムです。
これも成長すんの?
成長します。
お水はどうやって…?
お水は要らないです、この子。
うわっ!健気な子ね(笑)
そうなんですよ!エアープランツで、空気中の水分を吸って大きくなるんで…
この子がいいかな、じゃあ…。
ネットの反応
そんな、とくに何でもないようなやりとりが続いた放送直後、Twitterにはさまざまな意見が飛び交います。
「マツコの知らない世界」でエアプランツは水やり要らないとか言っていたそうですが、ちゃんと霧吹きとかソーキングで水はあげてくださいね。そうすると、ちゃんと花も咲きますから。 pic.twitter.com/8A0HEcOIko
— ふじたま (@fujitama3) 2017年1月31日
マツコの知らない世界
100均DIYと言うことで 楽しみにしてました。 が…一つ
どうしても どうしても言わせてくれ!
ダイソーさんで売ってるエアプランツ
エアプランツは『植物』です←
空気だけでは絶対に育ちません!! くれぐれも誤解なきよう(T_T)#マツコの知らない世界— Rabi (@rabi_tansansui) 2017年1月31日
チランジアを元気に維持して、あわよくば花も見ちゃいたいと願うなら、インテリアは諦めて、水苔で鉢植えにしてみましょう。普通の鉢花になっちゃいますが、躍動感あふれる姿と、きまぐれな花を楽しませてくれますよ。
— Planter / 秋だけきのこ屋 (@NmPlanter) 2017年1月31日
鉢植えにすればソーキングもミスティングも要らず、乾いたらジョウロかシャワーで水やりすればいいだけなのでとても楽ちん。トリコームが繊細な種類以外は、空気が乾いた家でも問題なく育ちます。15年以上チランジア育ててますが、一番おすすめな方法です。
— Planter / 秋だけきのこ屋 (@NmPlanter) 2017年1月31日
チランジア(エアープランツ)には水あげないと死にます!!死にますからね!!!絶対水あげなくても平気とか信じちゃだめですからね!!!
— 🍤めり込む🍤 (@agave_mrk) 2017年1月31日
と、ほとんどの方が「エアープランツに水を遣らないのは間違いです!」という論調です。
大手の園芸店でも…
以前、大手の園芸店さんがこんな投稿をしました。
僕はこのエントリーを目撃したとき、これはアウトな投稿だと思いました。未だに販売側の、しかも消費者に助言するべき立場の人が誤解を招くような記述をすることに落胆すら覚えたのです…。
僕もエアープランツを多く葬り去ってきました[*01]。その最たる原因は「水遣り」と「風通し」。そして、テキトーに潅水していた僕の栽培方法の間違いを忠言したのは、植物愛好仲間だったし、ベテラン栽培家さん。実は僕も「エアプランツ」の迷信に惑わされていた人間のひとりだったのです(笑)。
「水遣り不要」といわれるようになったワケ
ではなぜ、エアプランツは水を遣らなくても良いといわれるようになったのでしょうか。
1990年代初頭のこと。大量にチランジアが観葉植物として輸入されました。そのときに付けられた「エアープランツ」という名称だけが独り歩きし、いつのまにやら「水を遣らなくても育つ、枯れない」というイメージが定着したのです。
ただ乾燥地に適応した植物だけに、長期間水を与えなくても枯れないのは事実です。
確かに中南米を旅すると、電線に丸くなってくっついていたり、木々の梢からレース状に垂れ下がっていたりするティランジアを見かけます。およそ植物らしからぬこのような姿が誤解の最大の原因。素人目には生きているのか枯れているのかも判断できないのですから、どう扱ってよいのか分からないのが当然です。
引用元:熱帯植物 天国と地獄 (SCCガーデナーズ・コレクション)
上記の引用は、ティランジア・ブックの著書でもある清水秀男さんの書籍から。
ここにもある通り、商業的に耳目を集めるためのネーミングが影響を及ぼしているのです。その結果、エアプランツは空気中の水気を吸って云々…→枯れないよ!みたいな誤ったイメージが定着してしまう…。本格的な輸入が開始されて20年が経つ現在でも、チランジアを枯らしてしまうビギナーは少なくないと考えられます。
調べれば当然のように説かれる「水やり」の重要性
素人の僕が何を言っても説得力に欠けるので、ここで専門書を紐解いてみます。
これまでの経緯があるゆえに、書籍に記述された「水やり」に関して、誤解を正すような説明から解説がはじまります。
水やり
ティランジアは乾燥に耐える能力を持っているだけで、本来は水が好きな植物です。
(中略)
水やりは多くの種で週2~3回が目安となりますが、乾燥が激しい室内などで水を好む種を栽培する際は、毎日与えてもいいでしょう。
引用元:ティランジア~エアプランツ栽培図鑑 (アクアライフの本)
そして風通しの重要性も説かれる。
通風
通風はティランジアにとって特に必要な条件です。強風ではなく、通常は空気の流れがあればよい程度です。水やり後12時間以内に植物体が乾くくらいの通風が理想的です。
引用元:ティランジア~エアプランツ栽培図鑑 (アクアライフの本)
またはこのようにも。
通風の確保
室内で育てなくてはいけない場合は、水やりのあとや夏に室内が高温になる場合は、窓を開けるか、少し外に出して風に当ててあげましょう。扇風機やサーキュレーターなどで空気を動かしてあげるのも効果的です。密閉容器などに入れたりは厳禁です。
引用元:エアプランツとその仲間たち ブロメリアハンドブック
ここまで読めば、プロの栽培家は番組や上記Facebookの投稿にあるような紹介はするべきではないことが分かるはずです。そしてこれまで流布されてきた誤った認識も、間違いであると気が付いてほしい…。そんな初心者に向けてのメッセージとも読み取れます。
密閉容器にエアプランツを生きたまま「納棺」するブーム
水やりと風通し。調べればこの2つが重要だと歴然と説かれているのにも関わらず、インテリア重視での販路を拡大しようとする一部業者。それにつられて風通しの悪い室内で、水遣りもせず、カラッカラになったエアプランツをいつまでもディスプレイする消費者たち…。
切り花のように枯れていく様に美しさを見出す目的があるのなら、何とも文句は言いません。けれど、フツーに考えたら「水を遣らなくても育ちます」と言って売られる以上は、育てられることを望んで僕ら消費者はエアプランツを買うのです。
インテリアショップに足を運べば「お前はすでに、死んでいる」と宣告したくなるような、しかも密閉容器に「納棺」されたエアプランツが平気で販売されるのを、実際に僕もいくつも見てきました。スーパー、花屋、朝市マルシェに百円ショップ…。ことほど左様に街にあふれかえっています[*02]。
いや、密閉容器から取り出して、都度、適切なメンテナンスを施せば良いのですが、まさしく生きたまま殺していくのは如何なものでしょうか?
番組で述べられたような簡単に育てることができるようなニュアンスに違和感を抱いた人たち。もしかしたら、エアプランツを間違った方法で育てた経験をしてきた方が多いのではないでしょうか。だからこそ、Twitterのタイムラインが荒れるのかもしれません…。
水やり3年とはまさに真理
盆栽の世界には「水遣り3年」という言葉があります。その植物をある程度、育てられるようになるまでは水やりだけでも3年はかかるよ、ということ。植物を趣味とするとその言葉をホントに痛感するのです。まだまだ経験が足りないと。
エアプランツも然り。いや、エアプランツの水やりはなかなか難しい。生きているのか、枯れているのか、一見しても分かりにくい。だからこそ、毎日の反応を観察しドギマギする。そして花が咲いたときこそが「あの育て方は間違っていなかったんだ!」と気が付くのです。僕もやっと、そんな幸せを体験することができるようになってきました[*03]。
結論。
エアプランツの水やりはちゃんと育てられる人からの経験を頂戴すべし。僕もまだまだ精進が必要。頑張ります。