どうして「市民農園」はあるのに「市民温室(レンタル温室)」はないの?これから需要は確実に増えると思うのですが…。

潜在的に僕と同じ意見を持つひとがいると思うので、ここに記録しておきます。

「市民温室」があったらいろんなことができるのに…

photo credit: IMG_5443 via photopin (license)
photo credit: IMG_5443 via photopin (license)

あまりない?温室を「貸し出す」という仕組み

昨今、有機栽培からはじまる家庭菜園などが人気を呼んでいます。
週末は自宅の庭や、借りている農園などで野菜栽培に勤しむ方も少なくないはずです。

こういった農地を気軽に借りることのできる「市民農園」は、多かれ少なかれ各市区町村に存在するかと思います。
利用者数も増え、一部の市民農園はキャンセル待ちの状態であるとか…。

ただ、農地そのものを貸し出す市民農園は数多くありますが、なかなか無いのが温室を貸し出す仕組み

僕自身、自宅で観葉植物を栽培するようになってから、気温の下がるこの季節はどう植物を保管するべきか悩みの種になりました。

アジアンタムからみる、室内栽培の限界

植物によって「耐寒性」は変わってくるものの、熱帯植物の多くは日本で育てる場合、冬を越すことが大きな問題になってきます。
生花店などでよくみかける「アジアンタム」は、越冬設備のない一般家庭[*01]で冬を越すのは、ほぼ無理だと思っています。

DSC_9404

なのに、あのボリューム感と美しいフォルムで、アレンジメントや寄せ植えに頻繁に使われる…。

例えば母の日。
子供から貰ったカーネーションのセットにアジアンタムが入っているとします。
気温が高くなると、水を良く欲しがるので頻繁に水遣りを行う。
そうすると、どうしても愛着がわいてきます。

ところが、気温が下がる頃になると徐々に元気が無くなり、しまいには枯れてしまうのです。
せっかく貰ったのだから大切に育てたい…。
でも育てることができない…。
このジレンマにいつまで悩まされなければならないのでしょうか!

あったらいいな!「市民温室」という選択

このことを以前、友人と話していると「市民温室」みたいな仕組みがあったらいいのに!という結論に至りました。
農地を借りる「市民農園」と同じ仕組みで、温室の一角を借りることのできる「市民温室(レンタル温室)」です。

夏は存分に楽しませてくれた植物を、一時的に温室へ避難させる。
あるいは、弱ってしまった植物を元気にさせるなど、温室の利用法はいくつか考えられます…。

photo credit: Behind-the-scenes in Kew's Tropical Nursery via photopin (license)
photo credit: Behind-the-scenes in Kew’s Tropical Nursery via photopin (license)

すでに「ラン」を栽培する業者や個人などが「貸し温室」として、スペースを提供するケースもあるようです。
ただし、預けることができるのはランだけであったり、その数もまだまだ多くありません。

農地や建築の法律が絡む、あるいはイニシャルコストや利用者の数など、問題点は多々あるかと思います。
けれど、多肉植物をはじめとする「珍奇植物」ブームや、ナチュラル志向ブームをみている限り、どうしても足りないのはこうした越冬設備です。

バリエーションの増える園芸品種に僕ら消費者はどう対応するべきか

この頃の園芸種は、エクステリアにおける花卉にとどまらず、極めて温暖な気候で育つ植物も普及しはじめています
また、温室で育てられた植物がファッション性でのみ強調され、季節には大量に園芸店に並ぶことも。

さらには、新築祝いや開店祝いなどで、こういった観葉植物を贈る習慣も根強く広まっています。

とくに、ある程度の大きさになる観葉植物は、簡易温室[*02]に何とか入る大きさ。
郊外であれば、庭やベランダに置くことができますが、都心など限られた住環境のなかでこうした植物を育てるのはほぼ不可能です。

これらを勘案すれば、需要はあると思うのですが…[*03]。

DSC_1174

同じような悩みを持つ方は、是非とも声を挙げていただきたい…!
月に数千円で大切な植物を枯らさず、来年も楽しめることができるのなら、もっと園芸の裾野は広がるはずです。

今後、何がネックとなっているのか、どんな法律が絡むのか、調べて行こうと思います。

2018年10月:追記

この記事を書いて、かれこれ3年が経とうとしています。
僕も本を調べたり、何人かの方に話を聞いてきました。
土地の権利の問題、農業に関する法律の問題、利用者の問題など、さまざまな意見がありました。
そのなかで最も説得力があったのは、

閉鎖されている環境である以上、運営は難しい

というものでした。

いちばんの問題は「病害虫」

その意味は、なんてことはない「病害虫」の問題です。
温室という空間でひとたび病害虫が発生すればたちまち、あらゆる植物に広がっていきます。
たとえば、カイガラムシ
多肉植物によくつく害虫で、硬い殻に覆われているため、農薬散布による駆除が難しいといいます。
ところが、扱う農薬に適合しない(薬が掛かると薬害を起こす)植物が混ざっていたら、むやみに防除のための農薬を散布することができません
そもそも、農薬を使って植物を育てることを良しと思っていない人もいるかもしれません。

蘭の「貸温室」が成り立つ理由

逆に言えば、この記事にも書いた「蘭の貸温室」は、ランのプロフェッショナルがランのための栽培環境で他人の植物を預かるのです。
つまり、様々なランがあろうとも、プロがゆえに農薬の適合範囲も把握しているだろうし、ランの病害虫にも精通しています。
だから成り立つ。

ところが、どんなプロフェッショナルでも、さまざまな植物の、さまざまな病害虫に対処するにも限りがあります。
それどころか、近年は流通する植物が多様化し、温暖化の影響か、新たなる病害虫も目下増加中
それら全てを把握するのには無理があります…。

ならば植物ごとに区分けされた温室と、その植物に適合した農薬散布への許可を依頼者から取っていれば安心かもしれませんが、日本全国にそのような施設や人材を集めるのは至難の業です…。

そんなこんなで、「市民温室」の運営は一朝一夕にはいかないのだと知ったのです。
そしてまた、温室に憧れる冬の日々…。

とにもかくにも、この冬を乗り越えることを考えなくては!!

  1. ここでは関東圏を主に話を進めていきます []
  2. ホームセンターなどに売られている、簡易的なビニール温室です []
  3. 現にそういった仕組みがあるのなら、冬の間だけでも是非とも利用したい! []

この記事を書いた人

mokutaro

植物好きが高じ鉢物業界に飛び込んだアラサー男子。群馬県に移住し、毎日、食べ(られ)ない嗜好性の強い植物とまみれています。 園芸を考えるブログ「ボタニカログ」を運営中。