日本の漢方薬が危機!?『薬草の博物誌 -森野旧薬園と江戸の植物図譜-展』へ行きました!

植物イベント、次から次へと開催されています。この週末、僕はいわゆる「薬草展」へ行ってきました。

薬草の博物誌展へ行ってきました!

「本草学」って何だろう?からはじまる

場所は京橋のリクシルギャラリー。ちなみに僕、インテリアの学校で学んでいた際、ここに何度か足を運びました。確か、昔はINAXのショールームだったような…。まぁいいか。

さて、展示の正式名称は「薬草の博物誌 -森野旧薬園と江戸の植物図譜-展」。簡単に説明すると、奈良県宇陀市にある「森野旧薬園」の歴史からはじまり、日本や中国で発刊された書にある薬草を解説するというもの。

この展示、そもそも「本草学」という分野を出発点にして構成されています。

僕は「本草学」の知識もなく、なんの予習もしていなかったので、正直、展示の内容がなかなか頭に入ってきませんでした。

ところが、展示されているパネルや書籍にまつわる解説を読んで、なんとなく謂わんとしていることが分かってくる…。本草学は、いまでいう「博物学」なのかなぁと。そのなかでも「薬」に関する学問が多くを占めた…と理解しました[*01]。

時代を追うごとに写実的になる植物画

この展示のストーリーは、中国から伝来した「本草綱目」という書籍[*02]の解説がはじまり。本草綱目には、約2000種もの植物が掲載され、日本の本草学者にも多大なる影響を与えました。以降、あらゆる流派の技法や西洋からの技術が導入され、描かれる植物が写実的になる…。

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また、展示されている植物画は時代を追うごとに、植物が精緻に描かれるほか、彩色が施されたり、細かい解説も付与されていくのです。明治以降になると、植物画のまわりにアルファベットも登場し、もっぱら絵の主役は「花」となっていて、何の植物だか分かりやすくなっています。

「薬草展」の開催意義と漢方薬の危機

先輩から教わったこと

でも、この「本草学」と、いまでも薬草を栽培している「森野旧薬園」に何の意味があるのか。この展示は何を問いかけたいのか。ギャラリーをまわっているとそんな疑問が沸々と湧いてくるのです。

だって、頭が痛い!と思ったら、薬局に走れば某バフ○リンとか、某○ヴ錠とか、手軽に入手することができます[*03]。

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そんな現代にあって、薬草とか漢方なんて、存在する意味はあるの?と思っていました。ところが最近、とある先輩が漢方薬を飲んでいるというのです。

「最近さぁ、ストレスで肩と首が妙に凝るんだよね。そんなときは、精神科で漢方薬を貰ってくるんだよ」

思わず「そんなの効くんですか?」と訊ねると、

「それが意外と調子が良いんだよ。ほら、漢方って、その人に元から具わってる回復力を使う手助けをするんだよね」

漢方という言葉はよく聞くものの、現代の科学的な薬より効かないというイメージが強くありました。しかし、先輩の話をきいて、そのイメージがなんとなく薄らいでいったのです。

漢方の危機

そしてこの「薬草展」。ここで再び、漢方について知るのです。とはいえ、ギャラリーだけでは詳しく解説されなかった部分もかなりあります(笑)。その場合は、1階の書店で販売されている図録を買えば、もっと深く、この展示内容について、知ることができますよ(笑)。

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読めば驚くことばかり。ひとつは、現在日本で生産されている漢方の原料である「生薬」はたったの12%。しかも日本で使用される生薬の約80%は中国からの輸入に頼っているのだそう。

結果、中国の生薬政策農業事情の変化、さらには中国内での生薬需要増加で、「生薬」の入手が難しくなっているのだとか。漢方についてはあまり知らなかったので、国内でも中国でも需要があることに驚き、さらには、急速な自然破壊も影響していることをみると、危機的な状況に陥っているのだと感じます。

漢方の役割

また、漢方(生薬)の位置づけについて、

漢方医学で使用される漢方薬で、自然界の植物、動物、鉱物など複数の生薬を組み合わせて作られ、一つの処方に多くの有効成分を含む。西洋薬が特定の症状をピンポイントで改善するのに対し、漢方薬は個人の体質や病態に合わせて処方され、人が本来もっている自然治癒力を高める。現在、両者医薬品は共に有効性と安全性を保証するため厳しい品質評価が求められる。

引用元:薬草の博物誌 森野旧薬園と江戸の植物図譜 (LIXIL BOOKLET)

とあります。先ほど書いた先輩の話そのもの。さらにそこに付随して「多くの有効成分を含む」とは、なんだか嬉しくなります。

また、漢方薬は、個人の症状に合わせてさまざまな「生薬」を調合し、処方される…。そう思うと、現代の漢方薬の需要が増えている理由が、なんとなく理解もできます。

植物の利用法は永く培われた、人間の重要な「知恵」

そして最後に、この図録の「温故知新」の章にはこのように締められています。

高齢化と健康意識の高まりで漢方薬需要が増加している一方で、その原材料の約90%を輸入に頼るわが国の漢方薬産業の弱点がある。生薬には古来異物同名品種が多く、何を指標に品質評価してよいのかさえ分からないものが多い。栽培にしても、大半の生薬の場合、何をどのように栽培すればよいのかさえ分からない。生薬の国内栽培において今後に残された解決すべき最大の課題である。そうしたときに参考になるのは過去の文献や残された標本である。博物学は古い学問のように思われているかもしれないが、未来を切り開くために不可欠な学問分野であることが意外に気づかれていないように思う。

引用元:薬草の博物誌 森野旧薬園と江戸の植物図譜 (LIXIL BOOKLET)

この展示は、古くから薬草がどのように使われていたのか…ということを知るためという意義も、もちろんあるかと思います。それと同時に、僕らの祖先が古来から未来まで「使える」植物を遺そうと必死で伝えてきたことを知るためのものであるとも感じます。薬草の利用とは、人間による、人間のための、古来から培われた重要な知恵であると…。

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だからといって、今すぐに薬草なるものを栽培しようとか、保護しようなどとは思いません。が、漢方(生薬)の歴史やその未来について、少しずつ学んでいくことから始めようかと思います。そしていずれ、必用な薬が調達できない!とならないように何かできれば…。

「薬草展」は5月21日まで。

ということで、「薬草の博物誌 -森野旧薬園と江戸の植物図譜-展」は5月21日まで。まだ行かれていない方はお早めにどうぞ。

  1. これはあくまで僕の理解のなかでの「本草学」です。間違っていたらゴメンナサイ []
  2. 著されたのは明の時代(1596年)です []
  3. しかも、最近はより強力だといわれるロキ○ニンも一般解禁され、その絶大な効果の恩恵に授かっているのは僕だけではないはず。 []

この記事を書いた人

mokutaro

植物好きが高じ鉢物業界に飛び込んだアラサー男子。群馬県に移住し、毎日、食べ(られ)ない嗜好性の強い植物とまみれています。 園芸を考えるブログ「ボタニカログ」を運営中。