ハオルシア高騰の報道を観て。金儲けのためだけに多肉植物をはじめるのはオカド違いでしょ。

この記事、実は書き溜めていたのですが、公開しませんでした。僕はこんなこと言える立場じゃないので。

ところがまた多肉植物がテレビで取り上げられるみたいです。「注目されること」=「興味を持つ人が増えること」なので報道されること自体は良いことですが、注目される点がややビミョ~なポイントを突いてくるんじゃないかな?と読んでいます。いい機会なので、ちょっとこのタイミングで公開しようと思います。

多肉植物に関連する番組が放送されました

「札束飛び交う!“金のなる木”の正体とは?」

僕もSNSで情報を知り、放送を楽しみにしていた番組が2017年2月2日にオンエアされました。残念ながらリアルタイムで視聴できなかったのですが、放送後、多肉植物を趣味とされる方などから、番組に対しての批判が続出…。

しかも2017年3月現在、この番組に対して便乗するアフィリエイトブログばかりがGoogle上位に表示される始末。ちょっと異論を投げかける意味でも、僕なりの意見を記録していこうと思います。

番組の内容をざっくり記すと、

  • 東京では1,000人もの人々が押し寄せるイベントがある
  • そのイベントでは多肉植物と呼ばれる植物が売買される
  • 多肉植物に惹かれる人が多く出現し、いまや「タニラー」や「多肉女子」と呼ばれる趣味家が増加中。なかには多肉植物によって癒され、仕事のストレスから救ってくれた人もいる
  • 一方、昨今高額で取引されるのが「ハオルシア」と呼ばれる多肉植物。売り上げ1億円を誇る生産者も出現
  • 20~30代のおしゃれな男女とサボテン好きの60~70代男性が愛好家に多い
  • ハオルシアをネットオークションで販売し、給料の不足分を補う男性はこれまで250万円儲けた
  • クローン栽培のキットを販売することで、ハオルシアブームにあやかろうという業者も
  • 実はいま、中国でも多肉植物が流行しており、なかでも日本産のハオルシアは高値で取引される

というものです[*01]。

Twitterでの反応

この放送直後、ネット上では様々な意見が飛び交います。

およそ批判的な意見が多いのですが、それでも「ハオルチアが気になる」とか「多肉植物に興味を持った」など、趣味としての間口を広げられたとも受け取れます。また、多肉植物界の現状を断片的ではありますが、しっかりまとめられていると感じました。数10分の放送でしたが、多肉植物を趣味と公言している周囲の人がどういう状況に置かれているのかを少しは理解できたのではないでしょうか(笑)。

とはいっても、です。

植物の価格が高騰してしまう理由

以前、当ブログでもハオルシアの窃盗について投稿しました。

アジアを中心に世界的なブームが起きているハオルシア。今後もその流行は続いていくのではないかと、僕は考えています。なぜならハオルシアなどの多肉植物は極めて生長速度が遅く、投入される時間と経費が莫大となります。ゆえに需要と供給のバランスが不均衡となり易く、しばらく価格が高騰するのではないかと思うのです。

2015年ハオルシアフェアで出品されていた作品

さらに、流行している植物をイチから生産しようにも、商品として売り出すためには長い年月が掛かります。ハオルシアに限らず、生産を開始しても5年後10年後、その植物が売れるかどうか分からない…。市場の見極めが重要となるので、簡単に生産計画が立ちません。他にも、海外からの輸入制限があったり、そもそも日本の環境下では生産に適さないなど、植物が高騰してしまう背景には、いろいろと理由があったりします

とはいえ、一部のハオルシアをメインに栽培する愛好家や、美品を愛でる趣味家さんのあいだで過剰な価格での取引がなされている訳で…。ハオルシアにも種類が様々にあり、価格もピンキリ。趣味の世界を追及しなければそれほど問題にはなりません。また、流行が廃れたり、いまブームが起こっている国で本格的な生産が活発になれば、我が国内での高騰は(ブランド価値のついたもの以外は)落ち着くのではないでしょうか。

多肉植物って儲かる!?という偏見

また、ハオルシアに限らず、あらゆる多肉植物の高騰が相次いでいます。コーデックスなどの珍品にはじまり、数年前までは数百円で購入できたエケベリア。さらには多肉植物以外のシダ植物・エアプランツなどの観葉植物にまで価格高騰の波は押し寄せているのです。

植物の価格が過度に高騰してしまえば、これから植物をはじめようとする人たちの間口を狭めてしまうのではないか…[*02]。結果として「多肉植物はオトナの高貴でマニアックな趣味である」という認識が流布してしまえば、若い世代や気軽に楽しみたいという方たちに、多肉植物の面白さを伝えられなくなるかもしれません…

できればいたずらに「多肉植物は儲かる」とか「ビジネスをはじめるなら多肉!」みたいな、偏ったイメージを植え付けないで欲しい。むしろそれを問題提起するとか、なぜそのような状況になっているのかを、もう少し掘り下げてみればよかったのに…とも思います。

国内ではハオルシアの窃盗事件が相次ぎ、まるで想像もつかない程の損害を被っている人もいるのです。今回の放送はどこか、世界的なブームの余波で、悲しい事件に巻き込まれた人の心を傷つけるような内容のように感じてなりません。

植物を育てることは「娯楽」です。

ただ、価格が高騰するというのは一概に悪いことではなく、少しずつそんな植物の魅力が認識され、体験してみようとする人が増えている証拠でもあります。それだけ需要が多くなっているということ。

なんの偏見もなく、もっと気軽に植物という趣味をはじめられれば。そして難しい植物でも、簡単な植物でも、植物を中心としたコミュニティが活発になれば、正しい知識も広まっていくのでは?

photo credit: Gardening With Grammy via photopin (license)

そう。植物を通せば老若男女、共通の話題で楽しめる。それをビジネスとか、金儲けだけのイロメガネでみてしまうのは寂しいことではありませんか…?売り上げを気にして一喜一憂しながら趣味の園芸…なんてムシの良い話はあるのでしょうか?

なにより植物を育てることは「娯楽」です。娯楽だからこそ多くの人がその愉しさを享受できるのです。そしてその娯楽は世界共通の面白さを秘めているうえに、パチンコや競馬のように、お金を掛けなくても十分に楽しめるものなのです。

しかもこの「娯楽」は人の心に寄り添ったり、植物を通したコミュニケーションも深めたりもします。僕も植物を通して、仕事の辛さを乗り越えてきた経験があります。

番組序盤に登場した婦人靴販売の男性。仕事でのストレスを多肉植物が癒してくれたのだそうです。植物を育てることの本義はこのあたりにあると、僕は感じています。その上でコレクション性とか、誰かとの植物談議に花を咲かせるの楽しみが付随してくるのでは?

「ビジネス」の上に「娯楽」が成り立ち、その上で「ビジネス」がある

別にビジネスを否定しているわけではなく、ビジネスの視点だけで植物を見るのは如何なものなのでしょうか。もっとも商売あっての僕らの趣味だし、ビジネスが活発になされなければ業界は衰退するし、発展しません。ただし、過度な価格の高騰はかえって負の連鎖を起こしかねないのでは?というのが僕の言いたいところです。いまのハオルシアバブルもちょっとしたきっかけで弾けるかもしれませんし…。

photo credit: IMG_5443 via photopin (license)

繰り返しになりますが、植物を育てるのは「娯楽」。その「娯楽」がビジネスになってしまえば、タイヤのないクルマのように物事が機能しません。どうやって「娯楽」を守るのか、深めるのかをまずは考えるべきなのです。そして、如何にそれらを循環させていくのか、後世までどう残せるのかが本題だと僕は思っています。

今後も「植物の値段が高騰してるよ!」という報道しかなされないとは思います。それにより植物をはじめようとする人が増えるかも知れません。ならば僕らは、誰しもが楽しめる適切な園芸の手法を彼らに伝えていくべきではありませんか??それこそが僕らの趣味を守ることだし、多様な園芸文化を広めていく手段のはずです。

※ アイキャッチphoto credit: Haworthia – Backlight via photopin (license)

  1. 参考:所さん!大変ですよ|札束飛び交う!“金のなる木”の正体とは?|2017/02/02(木)20:15放送|NHK総合|TVでた蔵 []
  2. できれば、街の園芸店で高校生のお小遣いくらいで気になる植物を購入できるくらいがちょうどいいと考えているのですが、果たしてその水準で保たれるのかどうか… []

この記事を書いた人

mokutaro

植物好きが高じ鉢物業界に飛び込んだアラサー男子。群馬県に移住し、毎日、食べ(られ)ない嗜好性の強い植物とまみれています。 園芸を考えるブログ「ボタニカログ」を運営中。