嘘でしょ?バナナが食べられなくなる!?この頃耳にする『新パナマ病』って何なの??

あ~、お腹すいたな…。そんなとき、コンビニなどでついつい買ってしまうのがバナナ。うまい具合に皮でコーティングされているので、比較的持ち運びがしやすいうえに、手軽に食べることができる。

そんなバナナがいま、危機に立たされているのだそうです。

危機に立たされるバナナ

地球上のバナナの9割が絶滅に瀕している

先月4月のこと。バナナ産業に携わる人たちが参加した「国際バナナ会議」がアメリカで行われ、その中で「地球上のバナナの9割が絶滅寸前である」ということが発表されました。その原因は「新パナマ病」。パナマ運河周辺で発生した病気なので、この名前がついたそうです。

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新パナマ病は、カビの一種。カビがバナナの根っこを枯らしてしまい、1度蔓延するとその農園は何年も汚染されてしまう[*01]。特に今、フィリピンで多く報告されているのだとか。

1世帯・年間133本ものバナナを食べている?

バナナは有史以前からある植物で「人類の最も古い食料品」とも呼ばれています。生産量の多い国順に並べてみると、インド・中国・フィリピン・エクアドルとなります[*02]。そのうち日本人が食べているのは、約90パーセントがフィリピン産

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さらに、総務省から発表されている日本の1世帯当たりの果物は、やはりバナナがトップ。その量も、1世帯当たり年間20キロ。本数にして約133本ものバナナを食べていることになります。

フィリピンのバナナ

そもそも日本におけるバナナは台湾産のものが主流でしたが、1960年代からはエクアドル産に。そして1970年代には一気にフィリピン産が台頭し、今に至ります。

なぜフィリピン産が増えたのでしょう。

フィリピン農園(ミンダナオ島)は、バナナ栽培のネックとなる台風が直接来ない。
環境からみても、バナナ栽培に適した土地なのです。

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フィリピンのバナナ農園と日本人とは関係も深く、一説によると戦前に日本人農民が現地で「アバカ麻」を栽培。それが戦後、同じバショウ科の植物であるバナナに取って代わっただけだともいわれます。

では、なぜバナナがいま、このような危機に立たされているのでしょうか。そのことを、もう少し深く考えてみます。

実は50年前も同じような危機が起こっていた

種がなくて美味しいの、見ぃ~つけた!

栽培植物と農耕の起源で有名な中尾佐助氏は著書の中で

バナナの栽培化の最初の進歩は、たまたま雌花に雄花の花粉がつかなくても種無しの大きい果実のできる性質をもった変わり物を、野生の中からさがしだしたことからはじまったと想像される。これを選んで掘り取って、植えたり保護したりしたのが人類最初の農業だと考える人がいる

引用元:栽培植物と農耕の起源 (岩波新書 青版 G-103)

と書いています。要するに、いま世界中で消費されているバナナ、実は一本の木(正しく言えば1株の草)でした。それを「あっ、種がなくて美味しいの、見ぃ~つけた!」と株分けしつつ栽培されてきたのです。

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だからこそ、ひとつの病気が蔓延すると、同じ遺伝子を持つ、いわばクローンのようなバナナは一気に感染してしまうのです。

クリーミーで美味しいバナナ「グロス・ミシェル」

ところで、「昔のバナナはもっと美味しかったらしい」と良く聞きます。実はそれって、いま僕らが食べている品種と少し違った品種のバナナを食べていたからです。その名も「グロス・ミシェル」。

1900年代初め、ジャマイカでたまたまグロス・ミシェル(Gros Michel)というバナナを見つけたフルーツ商が、
「クリーミーでおいしいこのバナナでひとやま当てよう」と輸入を始めたところ、
アメリカで瞬く間に人気となりました。中南米のホンジュラスに広大なグロス・ミシェルの農園をつくり、
生産する人達も裕福になったため、「バナナ・ドリーム」という言葉が生まれたほどです。
ところが1900年代半ば、グロス・ミシェルに突然悲劇が襲いました。
バナナが枯れたり、黒ずんだりする「パナマ病」が急速に広まったのです。
病原菌はカビの一種、フザリウムです。株分けにより同じ遺伝子を持つグロス・ミシェルは、
パナマ病の病原体に侵されやすいという同じ弱点を共有していたため、壊滅的な被害を受けてしまったのです。

引用元:バナナがかかる病気とは?|バナナの立役者たち|ドールバナナの歴史を紐解く|バナナはドール

今からおよそ50年前、「パナマ病」と呼ばれる病気に侵された「グロス・ミシェル」は絶滅に瀕してしまいます。以降、病気に強い「キャベンディッシュ」という品種が、普段僕らが食べているバナナなのです。ただひとつ、グロス・ミシェルよりは美味しくないというのが問題なのですが…(笑)。

いまやグロス・ミシェルは全生産量の1割ほどしか生産されていないそう。クリーミーで大きいバナナ…。そういわれると、食べてみたくなります…。

これからバナナはどうなるの?

現状の打開策は、ない。

さて、話は現代に戻ります。グロス・ミシェルの代替品であるキャベンディッシュは現在、輸出市場の95パーセントを占めているそうです。

国際連合食糧農業機関によるとキャベンディッシュの年間生産量は5500万トン。世界に輸出されているバナナは1700万トンで、そのほとんどをキャベンディッシュが占める。

引用元:スーパーからバナナが消える?アジアで猛威、「新パナマ病」とは:イザ!

そして、キャベンディッシュも「新パナマ病」とよばれる病に侵されるいま、打開策はあるのでしょうか。

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単刀直入にいえば、現状での打開策はないのだそうです。ではどうするのか。

1,000,000本のうち3粒!

それは、新しい「タネ」からバナナを育てていくという方法が考えられます。

新パナマ病に強いバナナを開発するには、
さまざまな遺伝子を交配させて新たな性質を見つけなければなりません。
そのため、原点に戻って種からバナナを育てる必要があるのですが、
種なしバナナと種ありバナナを交配させても種ができるのは100万本にたった3粒だというのです。
研究が進められ、新パナマ病に強い「FHIA-25」という品種が誕生しましたが、
味がシンプルすぎるため今後の改良に期待が寄せられています。

引用元: バナナがかかる病気とは?|バナナの立役者たち|ドールバナナの歴史を紐解く|バナナはドール

ところがタネができる確率は100万本にたった3粒
うまく種から新しい株がとれたとしても、できた果実の味や品質、輸送に耐えられるかどうかなど、品種を見極める必要があるのです。実に気の遠くなる作業です…。

ならばと、日本は現在、エクアドル産のバナナに変えようとしているのだそう。しかし、フィリピンよりも輸送距離が長いため、その分費用も高くなってしまう…。

高騰するバナナ

価格にすると、フィリピン産のバナナが1房120円ならば、エクアドル産が150円ほど。ニュースではしきりに、今後、エクアドル産だけでは到底乗り切れず、価格が高騰してしまうだろうと伝えています。

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値段が変わらず、しかも安く買えることから、ことあるごとに食べていたバナナ。[*03]古来より、永く改良されてきた植物は、どんな科学技術をもってしても同じように作ることが難しいといわれます。

ひとつの品種を大量に作出したツケが回ってきたのかもしれません。そしてある意味、こうした食料がなぜいま食卓に並んでいるのか、一考する機会なのかもしれません。

  1. 最長で40年も土中に残される場合もあるのだとか []
  2. http://www.mofa.go.jp/mofaj/kids/ranking/banana.html []
  3. 僕の後輩にも、カバンにバナナを持ち歩いていて食べていた奴もいました(笑)。 []

この記事を書いた人

mokutaro

植物好きが高じ鉢物業界に飛び込んだアラサー男子。群馬県に移住し、毎日、食べ(られ)ない嗜好性の強い植物とまみれています。 園芸を考えるブログ「ボタニカログ」を運営中。