温室を建てることは植物愛好家の最終目標であり、ロマンである…ということを考えてみた。

温室を手に入れることは「植物愛好家」の最終目標である

植物愛好家の「ロマン」

以前、市民農園ならぬ「市民温室」は何故ないのかという記事をエントリーしました。

冬の季節はどうしても植物の保管場所に困ってしまうもの。3段の小さな簡易温室にビニルを掛けるたびに「温室があったらどれだけ便利なんだろう」って妄想してはため息を吐くのです。

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そして僕ら植物愛好家の最終的なゴールって「自前の温室を持つ」をいうことだったりします。そう。これはいろいろな人が語る夢であって、ロマンなのです。

江尻光一さんの著書「園芸の極意」から

この話が出るたびに、ある本のことを思い出します。それは僕の愛読書、江尻光一さんの「園芸の極意」に書かれたとある部分。

洋ランをこよなく愛するサラリーマンNさんは、仕事帰りに一杯ひっかけるという毎日を送っていました。当時、給料は手渡しだったため、さらには「つけ」での支払いだったため、経理室の外には様々なお店からやって来た人がずらりと請求書を手に並んでいたそうです。そのため、奥さんがNさんから給料袋を受け取る頃には、中身が少なくなっている…。

そんなところから話が始まります。

この奥さん、なかなかの賢き人。すぐにご主人と相談して温室を建てることにした。作ってみると、やはり居心地がよい。Nさんが少し早く帰るようになったので、しめしめと考えられたのかどうかは知らないが、その温室内の棚下に小さな冷蔵庫(当時としては珍しかった)を置き、中につまみ、ウィスキー、コップなどを入れておいた。もともと左党だったNさんは、これはありがたいとばかり、門から温室に直行、水を出して自分で水割りを作り、ちびりちびりとやりながら、好きな洋ランに手を伸ばす。

奥さんのアイデアはまさに大当たりで、それまでより帰宅時間がずっと早くなった。ただ面白い事に、玄関を入る時間は従来と同じだった。つまり、駅の周りの飲み屋にいる時間と同じくらいの時間を温室の中で過ごすようになったことになる。ただし、飲み屋で飲むのと我が家で飲むのでは費用は大違いなはずで、その結果、「今までよりもずっしりと思い給料袋を受け取ることができましたよ」としばらくたってからレポートが入った。

(中略)

古き良き時代のうらやましい話だが、こうした夢を実現してくれるのが温室であり、花との暮らしなのだ。

引用元:園芸の極意 (生活人新書)

何度読んでも羨ましいハナシ。

Nさんの後日談。友人がいれば尚更楽しい!

さらに後日談があって、Nさんには同じく蘭を愛好する友人がいて、その方も温室持ち。しかも大きい。

ちょうどNさんの帰路にバッティングするため、仕事帰りにはちょくちょく友人の温室を訪れていたそうです。しまいにはウイスキーのボトルを友人の温室にキープしてもらい、まずはそこで飲むと…。

ほろ酔いの良い気分になったあと、改めて我が家の温室で、コレクションに囲まれながら酒を飲む。きっと「地上の楽園」ってたぶんそういう場所なんだと思います(笑)。

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とくに好きな植物を目の前にしながら、同好の友と酒を飲むことほど楽しいものはありません。もっとも、植物をおかずに一人で飲んでいても幸福な気分を味わえますし…(笑)。いつかは僕もこんな暮らしを…と、妄想しては苦しく悲しい現実の日々を繰り返すのです(笑)。

心打たれた!バナナワニ園・清水さんのエントリー

そんな憧れのライフスタイルにトドメを刺したのは今年(2016年)の1月のコト。いつものようにバナナワニ園清水さんのブログを拝見していると、いつも以上に突き刺さるタイトルの記事が投稿されたのです。

夢は叶う

そして20年前、ようやく庭付きのマイホームの夢が叶い、10坪のガラス温室を作った。と言っても植物を買う予算はないから、実生してはキリンウチワ接ぎで育て、根降ろししてさらに育て、いつの間にか立派な刺物が充満する温室が完成したのである。50年余のサボテン人生、ようやく好きなサボテンに囲まれて休日をのんびりと過ごす、そういう贅沢を手に入れたのである。昨年、高校の同窓会で、私が一番幸せな人生を歩いて来たのではないかと言われたが、確かにそうかも知れない。子供の時の夢を実現できたのは私だけだったのかも知れないからだ。

引用元: 夢は叶う 学芸員の独り言/ウェブリブログ

全文を載せることはできませんので、ぜひ、リンク先の記事をご覧ください。

清水さんのサボテンを趣味とした半生が語られる、大好きなエントリーのひとつです。上記のNさんのハナシ然り、清水さん然り、温室を持てば幸せになれる!?と錯誤してしまう(笑)

温室を建てることがロマンではない

いや、温室を持っても幸せになれるとは限らないんじゃないか…。

きっとそこまで行きつくには大変な苦労があって、また温室がなくとも工夫してきたからこそ、サボテンに囲まれた空間を手にすることができたはずです。一度に大金を払って、ポンと温室を建て、いきなり高価なコレクションで埋め尽くすようなことをすれば、その達成感や幸福は味わえないはずです。

少しずつ少しずつ増えていく植物を、どうにか枯らさないように、どうにかスペースを確保しながら年月を重ねる。その果てに念願の温室がある。

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温室を建てることはロマンと冒頭で書きましたが、そう単純なハナシではないのかもしれません。

きっと、温室を建てるまでのその苦労を得ることがロマンであり、集めた植物とそのプロセスを歩むことこそが趣味家の醍醐味なのだと思うのです。

僕もそうありたいと願う今日この頃。増えてしまった植物を目の前に、毎年「温室が欲しい」と嘆きますが、冬は確実にやってきます。そして今年も悩むのです。

さて、越冬どうしよ

この記事を書いた人

mokutaro

植物好きが高じ鉢物業界に飛び込んだアラサー男子。群馬県に移住し、毎日、食べ(られ)ない嗜好性の強い植物とまみれています。 園芸を考えるブログ「ボタニカログ」を運営中。