約100年前のハナシだけど、今と似通う点も多かった「辻村伊助展」

ずっと報告が遅れて、昨年の12月にあったイベントを今さら書き記します…。

辻村伊助展へ行ってきました!

まずは辻村伊助展。以前、たまたま「辻村植物公園」へたどり着いたとこのブログにエントリーしました。園内の看板には辻村兄弟の活躍が記されていましたが情報も少なく、もっと彼らの軌跡を知りたくなったのです。

そして昨年の秋ごろ。ネットサーフィン中に「辻村伊助展」を「小田原文学館」で開催するとの情報を発見

山を愛した生涯紹介、小田原出身の辻村伊助氏の業績たどる特別展

小田原出身で近代登山の先駆者である辻村伊助氏(1886~1923年)の没後90年に合わせた特別展が、19日から小田原文学館(同市南町)で始まる。初の地元開催で12月15日まで。山を思い家族を愛した短い生涯を紹介する。市立図書館の主催で日本山岳会が協力した。

(中略)

特別展では、日本アルプスの縦走記録や、震災後に自宅から掘り出された「続スウィス日記」の手書き原稿、滞在したスコットランドから山仲間に送った海外の絵はがきなど約40点の資料を展示。辻村氏の足跡や、日本の登山家に大きな影響を与えた業績をたどる内容になっている。

引用元:山を愛した生涯紹介、小田原出身の辻村伊助氏の業績たどる特別展/横須賀:ローカルニュース : ニュース : カナロコ — 神奈川新聞社

溜った仕事を放り投げて行ってきました。

100年も前の出来事が目の前にあるように思えた

文学館へ行くのは初めてだったのですが、タイムスリップしたように落ち着ける場所でした。

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まず、この展示は大きく分けて3部構成。1部に日本の山へと挑む伊助氏の記録。2部に著作「スウィス日記」や「ハイランド」のもととなるアルプスへの挑戦。さらには伊助氏が小田原ではどのように過ごし、どのように亡くなって行ったのかの記録。そして3部には、「辻村農園」と兄・常助氏の記録になっています。

簡単に感想を書くと、植物のことだけでなく、当時の小田原や世の動きが現代とマッチする点もあり、それに出会うたびに驚きがあり面白いのです。

まず「スウィス日記」をまとめた展示の中に「第一次世界大戦の中で」というコーナーがありました。大正3年6月、第一次世界大戦のきっかけとなるサラエボ事件が起き、その感想などを「スウィス日記」に書き記しています。

私たちは、大分珍しい話を聞いた、それは墺露の宣戦布告である。墺国大使がセルヴィヤで殺されたことは、私がベルリンを出発する前、号外で承知した、そしてそれ等の国交が、危機にせまっていることは、その日の新聞に盛んに書き立ててあったが、いよいよ本式の戦争になるなんてことは、(略)まるで考えもつかなかった。(333頁)

引用元:スウィス日記-平凡社ライブラリー-辻村-伊助

教科書ではさらっとしか触れない事件でも、体験談を読むと当時の驚き具合が伝わってきます。さらには戦争というのは意外と些細なことで、しかも突発的に起こり得るのだとも感じます。その他にも、「国がどうこうというよりも、言葉が違えど同じ趣味を持った者同志のほうがよほど愉快である」と言う記述もあり、いまの僕らには重要なメッセージであるように思います。

「辻村農園」のビジネス、「辻村植物園」の開放

「辻村農園」については当時、野菜や花卉を東京市内に配達したり、シロップやジュースなどを百貨店に卸すなど、ビジネスでも成功していたようです。シロップについては宣伝チラシに「天然」と謳われ、「天然」をセールスポイントにするあたり、現代にも似通う部分があります。当時も「天然」であることは重宝がられていたのでしょうか?

その後、辻村農園は小田原駅付近から現在の植物公園付近へと移転し、昭和60年に小田原市が買収、公園整備をはじめたそうです[*01]。

「文学館」の周りにも興味深い施設が…。

その他にも、いろいろと興味深い展示がありました。が、書ききれないので割愛。文学館も敷地周辺に、小田原にゆかりのある文学者について学べます。僕は時間を忘れ、3時間ほど見学していました…。

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50年~100年ほどの時間は長いといえば長いですが、こうして当時の資料を巡るとつい最近の話のようにも思えます[*02]。予備知識があればもっと楽しめる施設だろうなぁ…。

  1. はじめに小田原駅の場所にあったのですが、熱海線(現・JR東海道線)の小田原駅建設のため、大正6年にいまある植物公園付近へと移ったそうです。さらに、戦中・戦後の辻村農園について詳しい記録がないらしく、恐らく食糧確保のための農地として利用されていたのではないかとのこと。そして、昭和60年に整備が始まり、平成2年に「辻村植物公園」として開放、現在に至るそうです(参考:辻村伊助展資料) []
  2. 谷崎潤一郎の「小田原事件」は知らなかったのですが、詳細を調べれば調べるほど、ここにも現代と似通う要素があって面白かった。誤解や偏見による報道という見方もあり、今とあんまり変わんねえな!と感じます []

この記事を書いた人

mokutaro

植物好きが高じ鉢物業界に飛び込んだアラサー男子。群馬県に移住し、毎日、食べ(られ)ない嗜好性の強い植物とまみれています。 園芸を考えるブログ「ボタニカログ」を運営中。